Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

日本の “防衛力” 強化は日本を守るためではなく、合衆国の覇権のための戦争準備

 ロシアによるウクライナ侵略を受けて、一部の国家や地域で軍拡に向けた動きが強まっている。日本も、先月の日米首脳会談の共同声明で “日米同盟” の「抑止力及び対処力を強化」を確認し、岸田文雄総理大臣は日本の “防衛力” の「抜本的」な強化とそのために必要な軍事予算の「大幅な増額を確保」する決意を表明。 “防衛力” の「抜本的」な強化と軍事費の増額について、岸田文雄は今月行われたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で、敵基地攻撃能力の保有も視野に、5年以内に行うと説明している。また必要な軍事予算については、今回の参議院選挙の自民党の公約に記されているように、「NATO 諸国の国防予算の対 GDP 比目標(2%以上)」を目安にしている。

 軍事費が対 GDP 比で2%以上ということは、現在の予算の2倍、約11兆円ということになる。高齢化や貧困対策といった課題があるにもかかわらず、必要な社会保障費すら毎年削減される中で、軍事費だけ大幅に増額するなどという方針は、一般庶民にとってとても受け入れられるものではないはずだが、世論調査によると、過半数が軍事費の増額を支持している。
 例えば、毎日新聞22/5/24)の世論調査では、「自民党は、GDP国内総生産)の2%を念頭に、日本の防衛費を増やすことを政府に求めています。どう思いますか」という質問に対して、「大幅に増やすべきだ」と回答した人が26%、「ある程度は増やすべきだ」が50%と、圧倒的多数が軍事費の増額を支持しており、「増やす必要はない」は17%、「減らすべきだ」は6%と少数派になっている。また日本経済新聞22/5/30)とテレビ東京による世論調査も、56%が軍事費を対GDP比2%以上に増額する自民党の方針に賛成、反対は31%となっている。
 多くの人が軍事費の増額に賛成するのは、ロシアのウクライナ侵略によって安全保障への関心が高まっているという現状に加えて、中国の軍拡や朝鮮の核・ミサイル開発などによって東アジアの緊張が高まっているという印象があるからだろう。中国の “海洋進出” や朝鮮のミサイル発射実験など、マスメディアは中国や朝鮮が一方的に地域の平和を脅かしているという設定で中国や朝鮮に関するニュースを繰り返し伝え、中国や朝鮮の脅威を執拗に強調してきた。
 しかし中国の軍拡の背景には、中国を念頭に置いた日米の軍事的な圧力がある。合衆国は400以上の軍事基地で中国を包囲し、中国の交易ルート遮断を目的とした海上封鎖の演習を行うなど、中国を軍事的に威嚇している。また中国を仮想敵国とした “日米同盟” の強化や、辺野古の米軍新基地建設、自衛隊による南西諸島の軍事要塞化も中国を脅かしていることだろう(Bark at Illusions20/9/1121/4/28など参照)。また朝鮮がミサイルや核兵器の開発を続けるのは、合衆国の対朝鮮敵視政策が最大の理由だ(Bark at Illusions19/3/1421/3/31など参照)。日本と合衆国も東アジアの緊張を高める要因となっているのであり、日米の軍事力強化は地域の緊張をさらに高めることになるだろう。
 ロシアによるウクライナ侵略は決して正当化することはできないが、その背景にNATOの東方拡大と、合衆国によるウクライナへの軍事支援があったことを忘れてはならない。NATOは米ソ冷戦時代にソ連を仮想敵国として設立された軍事同盟であり、ロシアはNATOをドイツより東に拡大しないという冷戦終結時の約束を反故にするNATO諸国に対して度々警告を発してきた。また合衆国政府はウクライナで民主的に選ばれた政権を転覆させた2014年のクーデタを支援し、それ以降もウクライナへの軍事支援を続けてきた。軍事力に頼る安全保障体制は却って地域の緊張を高め、紛争を招くことがあるというのが、ロシアのウクライナ侵略から得られる教訓だ。

 ナチスの国家元帥を務めたヘルマン・ゲーリングは、権力者が戦争を望まぬ市民を戦争に参加させる方法について、次のように述べている。

「それはとても簡単なことです。国民に対して、我々は攻撃されているのだと伝え、平和主義者には愛国心がないと言って非難し、彼らが国を危険にさらしていると主張するだけでいいのです。この方法はどの国でも、うまくいきます」

 中国や朝鮮の脅威から日本を守るためだと嘘をつき、合衆国の覇権のための戦争の準備を着々と行う日米両政府、それにその協力者のマスメディアに騙されないようにしよう。
 さもなければ、東アジアの戦争も、もうすぐそこだ。