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── Media Watchdog Group

朝鮮半島を非核化するには、合衆国の対朝鮮敵視政策の撤回が必要だ

 巡航ミサイルに戦術誘導ミサイル。朝鮮が立て続けにミサイル実験を行った。マスメディアは、その直前まで行われていた米韓合同軍事演習については、同じように朝鮮半島の緊張を高める行為であるにもかかわらず全く問題にしなかったくせに、朝鮮のミサイル実験については、「北朝鮮の挑発 同じ愚を繰り返すのか」(朝日、社説、21/3/26)、「北朝鮮がミサイル発射 挑発では状況変えられぬ」(毎日、社説、21/3/26)などと非難している。しかし朝鮮に対する合衆国の軍事的行動を不問にして朝鮮の軍事的行為だけを問題にしていては、いつまでたっても朝鮮半島の非核化は実現しないだろう。

 ベトナムハノイで行われた米朝首脳会談(2019年2月)での決裂以来、朝鮮半島の平和と非核化に向けた動きは停滞が続いているが、朝鮮半島の非核化を実現するためには、実は簡単な解決策が既に用意されている。それは、合衆国政府が朝鮮に対する敵視政策を撤回することだ。
 朝鮮が合衆国に対する抑止力として核兵器を開発したということは、議論の余地のないことだろう。逆に言えば、キム・ジョンウン労働党総書記が2018年3月に韓国政府の特使団に対して語ったと伝えられるように、朝鮮にとって合衆国の「軍事的な脅威が解消されるならば、核を保有する理由がない」。このことは、1994年の米朝枠組み合意や2005年の6カ国合意、あるいは2018年にシンガポールで行われた米朝首脳会談でも、朝鮮政府が関係国による朝鮮半島の平和体制の構築や米朝の関係改善などを条件にして、核開発の中止あるいは非核化を約束していることからも明らかだ。
 現在、朝鮮政府が合衆国との対話を頑なに拒み、キム・ジョンウンが今年1月に行われた朝鮮労働党大会で核抑止力を強化する方針を示すなど、シンガポール合意で約束した「朝鮮半島の非核化」に反する行動をとっているのは、合衆国政府に対する不信があるからだろう。シンガポール会談で米朝両政府は、「朝鮮半島の非核化」と共に、「新しい米朝関係の構築」や「平和体制の構築」などに取り組むことで合意しているが、シンガポール会談前に既に核実験場を爆破し、会談後はミサイル施設の解体を行うなど、合意の履行に努めてきた朝鮮に対し、合衆国側は米韓合同軍事演習の延期や縮小をしただけで、逆に韓国軍にステルス戦闘機 F35A などの新鋭兵器の納入を行うなど、シンガポール合意に反する行動をとってきた。

「このような状況下で、守ってくれる相手もいない公約に、朝鮮がこれ以上一方的に縛られる根拠はありません」

 2019年の年末に期限を設けて合衆国政府が態度を変えることに期待をかけていたキム・ジョンウンは、その年末に開かれた労働党中央委員会総会の演説(朝鮮中央通信、20/1/1)でこうに述べて、「自給自足」「自力更生」で経済発展を図る「正面突破戦」を宣言した。
 その後の朝鮮国内の状況について、キム・ソン朝鮮国連大使は、昨年9月の国連総会の一般討論演説(20/9/29)で次のように説明している。

「我々は財布の紐を締めることによって、自衛のための信頼できる効果的な戦争抑止力を獲得したので、朝鮮半島及び地域の平和と安全は、今はしっかりと守られています。
 議長、
 国家と人民の安全を守るための信頼できる保証に基づいて、朝鮮は安心して全ての努力を経済建設に注いでいます」

 朝鮮は現在、合衆国の敵視政策が終わることはないということを前提に、核抑止力で国家と人民の安全を保証し、社会主義経済建設に力を集中している。今回のミサイル発射実験も、合衆国に対する「挑発」というよりは、敵対する米韓の軍事力向上に合わせて、自国の抑止力をより確かなものにするための措置だと見るべきだろう。キム・ジョンウンは今年の朝鮮労働党大会(朝鮮中央通信、21/1/10)で次のように述べている。

「地球上に帝国主義が存在し、我が国家に対する敵対勢力の侵略戦争の危険が続く限り、我が革命軍の歴史的使命は決して変わらず、我々の国家防衛力は新たな発展の軌道に沿って絶えず強化されなければならない」

 ただし、朝鮮政府に非核化の意思が完全になくなったと見るべきではない。朝鮮政府は合衆国による敵視政策の撤回を条件に核兵器を放棄する用意があることを、繰り返し示唆している。例えば、キム・ジョンウンは2019年の労働党中央委員会総会(朝鮮中央通信、20/1/1)と今年の朝鮮労働党大会(朝鮮中央通信、21/1/10)で、それぞれ次のように述べている。

「合衆国が対朝鮮敵視政策をあくまで追求するならば、朝鮮半島の非核化は永遠にあり得ない」、「合衆国の対朝鮮敵視が撤回され、朝鮮半島に恒久的で、かつ揺るぎない平和体制が構築されるまで、国家の安全のための必要かつ必須の戦略兵器の開発を中断することなく引き続き力強く進める」

「新しい朝米関係構築のキーポイントは、アメリカが対朝鮮敵視政策を撤回するところにある」、「今後も、力には力、善意には善意の原則に基づいて、アメリカに対するだろう」

 戦争が完全に終結していない中で、自分たちは新鋭兵器を導入したり、軍事演習を繰り返しておきながら、相手に武装解除しろというのは無理な要求だろう。
 まずは合衆国政府が朝鮮に対する敵視政策を撤回して、朝鮮政府との平和と非核化に向けた交渉を再開すべきだ。