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── Media Watchdog Group

台湾有事で日米が軍事介入なら、それは国際法違反

 ロシアによるウクライナ侵略が台湾情勢に与える影響について懸念する声がある。例えば、岸田文雄総理大臣は現在のウクライナ情勢は「明日の東アジア」だと繰り返し述べて、中国による台湾の武力統一などを念頭に、国際社会がロシアの蛮行を許せばアジアでも「力による現状変更」を許すことになると警戒する。またマスメディアでは、ロシアによるウクライナ侵略以降、台湾有事の際に合衆国が軍事介入するか否かについて、度々論じられている。

 台湾有事を考える時、マスメディアなどは彼らがロシアと同様に「権威主義国家」だと位置付けている中国を侵略国として論じているが、これは間違いだ。
 ウクライナの場合、ロシアは2014年以来続く内戦で、ウクライナ政府から攻撃を受けているウクライナ東部ドンバス地方のロシア系住民の保護を目的の一つとしてウクライナに軍事介入したわけだが、ドンバス地方はウクライナという国家の一部であり、ロシアの軍事介入は他国への侵略行為、明白な国際法違反だ。ロシア政府としては、独立を宣言していた東部2州を独立国家と認めた後に、2つの自称独立国家からの要請を受けての集団的自衛権の行使という体裁を整えたつもりだろうが、東部2州は国際社会からは独立国家とは認められていない。
 これに対して台湾の場合、多くの場面で「国家」ではなく「地域」として扱われているように、台湾は少なくとも建前上は中国の一部という認識が国際社会では一般的だ。日本や合衆国も、中国政府が主張する「一つの中国」の原則を認めた上で、中国との国交を正常化させた経緯がある。日本政府は、日中国交正常化に向けた中国政府との共同声明の中で、「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認」し、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると述べた上で、「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉」などを「基礎」に「両国間の恒久的な平和友好関係を確立すること」を、中国政府と合意した。合衆国政府は、中国との国交正常化の際に台湾が「中国の一部」だという中国の主張を認め、台湾に駐留していた米軍の撤退を約束(上海コミュニケ)、また、その後の米中共同コミュニケでも、合衆国政府は「中国の内政に干渉する意図も、『二つの中国』あるいは『一つの中国,一つの台湾』政策を推し進める意図もないことを重ねて言明」し、台湾への武器売却も「次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導く」と約束している(8・17コミュニケ)。
 従って、仮に中国が武力で台湾統一を図り、日本や合衆国が台湾防衛のために軍事介入するという状況を、今のウクライナの状況に当てはめて考えるなら、台湾はウクライナからの独立を宣言したドンバス地域の2州、中国はドンバスのロシア系住民に対して軍事攻撃を行っているウクライナ、日本や合衆国はウクライナを侵略しているロシアということになる。
 合衆国のジョー・バイデン大統領が台湾有事の際の軍事介入を肯定したり、日本の自民党極右政治家などからは台湾有事を日本の有事と捉えて集団的自衛権行使の可能性に言及する声が聞かれるが、合衆国や日本が台湾に軍事介入するようなことがあれば、それはロシアによるウクライナ侵略と同じように、明白な国際法違反だ。

 マスメディアは中国が台湾への軍事的な圧力を強めて台湾海峡の緊張を一方的に高めているかのような印象を与えているが、中国が台湾への圧力を強める背景には、台湾への武器売却や軍事支援を行ったり、台湾の独立派に肩入れするなど、上述の中国との合意に反する日米の言動があることを忘れてはならない。またマスメディアは、中国による「6年以内」の台湾武力統一の可能性に言及した合衆国のフィリップ・デービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)の合衆国上院公聴会における発言(2021年3月)を繰り返し伝えるなど、中国による台湾への武力行使が間近に迫っているかのような印象を与えているが、専門家の間では、日本や合衆国などが台湾独立を軍事的に支援しない限り、中国が台湾に対して軍事力を行使することはないという見方が現状では一般的だ。例えば、オバマ政権下の国家安全保障会議NSC)で中国の担当部長を務めたライアン・ハス氏(朝日21/4/16)は、「中国は長期的には戦闘せずとも台湾統一を実現して勝つ自信を今も持っている」ことを「最大の理由」に挙げて、中国政府は「台湾有事」を望んでいないと分析する。

 日米首脳会談の共同声明で日米両首脳は「台湾海峡の平和と安定」について繰り返し言及しているが、本当にそれを望んでいるのなら、日米両政府は台湾に武器を売却したり、台湾の独立派に肩入れするのはやめて、中国政府との合意を遵守してはどうだろう。
 それとも、中国と台湾が平和的に統一されることを恐れているのだろうか。