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── Media Watchdog Group

「民主主義」のための戦いだと偽り、ウクライナに兵器を送って戦争を続けさせるのはやめよう

 欧米や日本の政府・マスメディアは、ロシアによるウクライナ侵略を「国際秩序」に対する「挑戦」などと受け止め、「民主主義」を守るための戦いと称して、ウクライナに対するさらなる軍事支援の必要性を訴えている。しかし欧米がウクライナへの武器供給を続ければ戦闘はさらに激化し、戦争が長期化することも避けられない。そしてそれはさらなる犠牲者の増大を意味する。欧米や日本はウクライナへの軍事支援でロシアを撃退しようとするのではなく、交渉による即時停戦を模索すべきだ。

 ロシアによるウクライナ侵略は明白な国際法違反であり、糾弾されるのは当然だ。しかし、それが国際秩序に対する「挑戦」だとか、「民主主義」に対する攻撃だと言えるかどうかは、甚だ疑問だ。
 ロシアが現在ウクライナがやっていることは、これまで合衆国がやってきたことと何ら変わりはない。建国以来、合衆国は自らの “国益” のために侵略戦争や他国の政権転覆を繰り返してきた。第二次世界大戦以降だけを見ても、朝鮮、グアテマラベトナムカンボジアラオスセルビアアフガニスタンイラクリビアなど、合衆国が軍事侵略した国家は枚挙にいとまがない。「国際秩序」がどのように定義されているかによるが、「国際秩序」が国際法に基づく平和的外交による国際関係のようなものを意味するなら、そんなものは元々存在しなかったのだ。むしろ、今回のロシアによる侵略は、大国が国際法を無視して軍事力や経済力で他国に介入できるという「国際秩序」に従い、これまでの合衆国の振る舞いを真似たに過ぎない。ただし合衆国にとって、大国の例外が許されるのは合衆国だけで十分だ。だからマスメディアなどが「国際秩序」に対する「挑戦」という時、それは合衆国とそれに群がる “同盟国” には今回のロシアの行為が「挑戦」と映るというだけのことであって、この場合の「国際秩序」は普遍的な平和や安定を意味しない。
 またウクライナでは2014年に民主的な選挙で選ばれた大統領が極右やネオナチが主導するクーデタによって退陣させられたが、合衆国政府はクーデタを支援し、クーデタ後の暫定政府の首相指名まで行っている(BBC14/2/7)。だからウクライナの民主主義を最初に攻撃して破壊したのは、合衆国なのだ。合衆国政府は、今回のウクライナ侵略についてロシアを批判できる立場にはない。
 それから、クーデタ後のウクライナ政府が民主的かという点についても疑問が残る。クーデタで成立した政府が民主的であろうはずがないのだが、暫定政府は公用語としてのロシア語の地位の廃止や共産党の非合法化などを行った。またクーデタに反対するウクライナ東部・ドンバス地方の住民に対する戦争を開始し、その戦争は現在も続いている。ペトロ・ポロシェンコ前大統領は、ドンバスに対する戦争の理由について、2014年の演説で次のように語っている。

「私たちは仕事にありつけるが、彼らはそうはいかなくなる。
私たちは年金が受けられるが、彼らはそうならなくなる。
私たちの年金受給者と子供たちは様々な恩恵を受けられるが、彼らはそうはいかなくなる。
私たちの子供は、毎日学校や保育園に通う。だが、彼らの子供は洞窟で暮らすことになる。
つまり、彼らは何もできなくなるのだ。
これこそが、我々がこの戦争に勝つ理由なのだ」

 ウクライナ政府軍はドンバス地方の民家や幼稚園、学校、病院、インフラなどを空爆し、多くの市民を虐殺した。そして東部住民に対する行政サービスも停止した(ロイター14/11/16)。現在のゼレンスキー政権は、東部に対する前政権の政策を継続し、“親ロシア” を理由に3つのテレビ局の閉鎖を命じている(Deutsche Welle21/2/3)。
 ロシア語を話し、クーデタに反対するからと言って、自国の市民に対して爆弾を落とす政府。自分たちと意見の異なる政党や、政府に批判的なメディアを弾圧する政府。そんな政府が民主的と言えるだろうか。

 今ウクライナで戦っているのはロシア軍とウクライナ軍だが、この戦争の本質はロシアとNATO諸国の覇権争いだ。ロシアのウクライナ侵略は、冷戦終結時にNATO諸国がソ連と交わした約束を破り、ロシアの懸念を無視してNATO拡大を続けた結果である。カナダやメキシコがロシアや中国の軍事同盟国となることは合衆国にとって決して容認できないことであるのと同じように、ウクライナがロシアを仮想敵国とする軍事同盟の一員となることはロシアにとって許されることではない。停戦への糸口は、この問題でロシア、ウクライナ、そしてNATO諸国が妥協点を見出すことができるかという点にあると考えるのが妥当だろう。
 ウクライナへの侵略前、ロシア政府は合衆国政府とNATOに対して、NATO不拡大の約束を含む、相互安全保証と信頼関係に基づく安全保障体制の構築を提案していた。ウクライナへの侵略後、イスタンブールでの停戦交渉でウクライナ側が「中立化」を受け入れる考えを示すと、ロシア政府は「信頼醸成」と停戦合意に向けた「環境づくり」のためだと称して、キエフ周辺での軍事活動を縮小させた。その後、ウクライナ政府はイスタンブールで示した譲歩案から態度を後退させたため、ロシア側は再びキエフへの攻撃を再開させたが、こうした流れからも、ウクライナの「中立化」、NATOの不拡大が、即時停戦の鍵となっていることは明らかだ。

 現在、マスメディアは最後の1人まで戦う覚悟のウクライナ政府や、それに応えてウクライナへの軍事支援を行う欧米諸国や日本について、肯定的に伝えている。しかしロシアが窮地に陥った場合に核兵器化学兵器を使用する可能性があるという欧米や日本の政府・マスメディアの主張が確かであるなら、武器を送ってウクライナに戦争を続けさせるというのは非常に危険なことだ。またNATO諸国の関わり方次第では、第3次世界大戦につながるのではないかとも懸念されている。それは核戦争になる可能性が高く、人類の滅亡を意味するだろう。
 ウクライナにとって事実上の降伏になろうとも、先ずは停戦で双方による殺戮を止めることが必要だ。ウクライナは「国際秩序」や「民主主義」のために戦っているわけではないのだ。たとえウクライナが望む形での国家が残ったところで、ウクライナ市民が全滅してしまったら、何にもならないではないか。
 ウクライナが侵略者であるロシアに対して譲歩するというのは確かに理不尽なことだ。しかしロシアとNATOの代理戦争のために、数多くのウクライナ人の生命が奪われ、街や村が破壊されるというのは、もっと理不尽なことだ。
 国際社会、特に欧米や日本に住む市民は、戦争を続けるのではなく、戦争をやめさせることに全力を尽くすよう政府に圧力をかける必要がある。