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── Media Watchdog Group

イスラエルの軍事行動をハマスに対する戦闘として伝えることはジェノサイド容認につながる

 マスメディアは、イスラエルが現在ガザで行っているジェノサイドを、ハマス壊滅のための軍事作戦としてニュースを伝えていることが多い。今月23日放送のNHKニュース7もその一つだ。

 「イスラム組織ハマスの壊滅を掲げるイスラエル軍は、ハマスガザ地区の指導部が潜伏していると見て、南部への攻勢を強めています」

 こう述べてニュースを切り出したニュース7(23/12/23)は、クリスマスを前に平和を求める声が世界で高まっていることを伝えた後、イスラエル軍が提供した映像を紹介しながら、次のように説明する。

「薄暗く、狭い地下トンネル。イスラエル軍が犬に取り付けたカメラで地下トンネルを撮影したとする映像です。道の先には階段や、椅子のような物も見られます。ガザ地区南部のこうしたトンネルに潜伏していると見られるのが、ハマスガザ地区トップ、シンワル指導者」

 そして侵略者であるイスラエル軍が提供した映像の信憑性や、ハマスの指導者がガザ南部のトンネルに潜伏しているというイスラエル側の見方を全く疑うことなく、

イスラエルハマスの本格的な解体に向けて、南部のハンユニスを中心に軍事作戦を強化しています。またハマスの軍事部門トップのデイフ司令官について、イスラエルの複数のメディアは、司令官が歩いている様子が写った映像が発見されたと伝えています」

と述べて、イスラエルの「軍事作戦」はハマスを「壊滅」するために行われていることを強調し、

「戦闘が長期化する中、部隊がハマス指導部に迫っていると強調する狙いもあると見られます」

と説明。
 その後、ニュース7イスラエルハマス壊滅作戦を行う「一方」で、ガザの死者が2万人を超えていること、それに食料不足が深刻化していることなどを指摘し、国連のアントニオ・グテレス事務総長の停戦を求める声を伝えてニュースを終えている。

 しかし、イスラエルによるガザへの攻撃を、ハマス壊滅のための軍事作戦という構図で伝えるのは適切だろうか。
 10月7日のハマスの襲撃以来、イスラエル軍は世界有数の人口密集地であるガザに対して無差別集中爆撃を行い、住宅や生活インフラをことごとく破壊、さらに病院や避難所となっている学校、モスク、教会、国連施設なども攻撃した。ガザでは既に2万人以上がイスラエルによる戦闘によって殺害されているが、その7割以上が女性と子どもである(戦闘員と非戦闘員の男性を区別した統計はないので、非戦闘員の男性を含めると実際の市民の割合はもっと高い)。また人口の約9割が避難民として自宅を追われ、戦闘に加えてイスラエルによる完全封鎖の結果、ガザは飢餓状態に陥っている。さらに、「ガザに無実の人間はいない」と言うイスラエルのヘルツォグ大統領や、聖書のアマレクに言及してパレスチナ人殲滅を訴えたネタニヤフの言葉(ネタニヤフは本格的な地上侵略を宣言する声明の中で「アマレクがあなた方にしたことを思い起こさなければならない」(申命記第25章17節)と述べた。サムエル記第15章3節には、「今、行ってアマレクを撃ち、彼らの持っているもの全てを徹底的に破壊しなさい。容赦するな。男も女も、幼児も乳飲み子も、牛も羊も、ラクダもロバも殺しなさい」と記されている)からも、イスラエルが実際にはハマスだけではなくて、ガザ全体を、ガザ市民全員を標的にしていることは明らかだ。

 国連のジェノサイド条約は、「国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図」を有して、「(a)集団構成員を殺すこと。(b)集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。(c)全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。(d)集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。(e)集団の児童を他の集団に強制的に移すこと」は、いずれもジェノサイドに当たると定義している。イスラエルが現在パレスチナに対してい行っていることは、上記のうち、少なくとも最初の3項目、恐らく全ての項目に該当する。またヘルツォグやネタニヤフなどイスラエル政府の発言には、イスラエルがガザ市民全体を破壊する明確な意図を有してそれを行っていることもはっきりと示されている。イスラエルがガザで行っている「軍事作戦」は、ジェノサイドに他ならない。

 ハマスは、欧米の多くの政府からテロ組織として指定され、日本のマスメディアでも事実上そのように扱われている。そのハマス壊滅のためのイスラエルの「軍事作戦」としてイスラエルの軍事行動について伝えることは、ジェノサイドという実態を隠蔽し、イスラエルがテロ組織壊滅のために合法的に戦っているかのような誤った印象を与えることになる。そしてそれはイスラエルの蛮行を止めるのではなく、バイデン政権のように如何にして一般市民の犠牲を減らすかという誤った議論へと導くことにもなりかねない。
 パレスチナで行われている大量殺戮を止めなければならないと少しでも考えているのであれば、マスメディアはイスラエルが行うジェノサイドをハマス壊滅のための軍事作戦としてニュースを伝えることを直ちにやめなければならない。