Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

マスメディアによる免罪が、イスラエルによる占領と暴力が続くのを許している

 イスラエルが先週、パレスチナのガザやレバノン南部を空爆した。マスメディアはハマスイスラエルにロケット弾を撃ち込んだことへの報復だと説明し、イスラエルパレスチナを占領しているという基本事実すら無視して、イスラエル国際法に照らして批判することを避けている。

イスラエル、ガザを空爆 レバノンからロケット弾、報復」(高久潤、朝日23/4/8
「『レバノンから36発』 ロケット弾、2人負傷 イスラエル(三木幸治、毎日23/4/8

 このような見出しで、暴力の応酬の起点がパレスチナ側にあるかのように読者をミスリードした朝日新聞毎日新聞は、記事の本文の中で攻撃の「背景」について、「衝突」という言葉を用いてそれぞれ次のように説明する。

「背景には、エルサレム旧市街にあるユダヤ教イスラム教双方の聖地の丘で起きたイスラエル治安部隊とパレスチナ人の衝突がある。
 イスラエル治安部隊は5日、パレスチナ人が危険物を持って立てこもったとして、聖地内の『アルアクサ・モスク』に2度にわたり突入。隊員が警棒や銃でパレスチナ人を殴りながら拘束する動画が、SNSなどで拡散した」

「攻撃の背景には、エルサレムにあるユダヤ教イスラム教の聖地『神殿の丘』での衝突がある。イスラエル治安部隊は、パレスチナ人がモスク(イスラム教礼拝所)に危険物を持ち込んでいるとして5、6日にモスクに突入。隊員が礼拝中のパレスチナ人を警棒で殴打する映像がSNS(ネット交流サービス)で拡散し、パレスチナイスラム諸国が強く反発していた」

 アルアクサモスクで起きたことを「イスラエル治安部隊」とパレスチナ人の「衝突」と説明するのは不適切だ。アルアクサモスクは、イスラエルが1967年の「第三次中東戦争」で侵略して以来占領を続けている東エルサレムにある。「イスラエル治安部隊」が「突入」した時、モスクの中にいたのは、ラマダン月の礼拝に訪れていた人々である。「イスラエル治安部隊」はモスクから礼拝者を強制排除するために衝撃手榴弾やゴム被覆弾などを用いて少なくとも31人のパレスチナ人を負傷させ、400人以上を逮捕。さらに「治安部隊」は救急隊員が負傷者を治療するのを妨害した。イスラエル側の負傷者は報告されていない。アルアクサモスクで起きたのは「衝突」ではなく、占領軍による被占領者への襲撃である。
 イスラエルによる暴力は「フェイク・ニュース(偽ニュース)」だとでも言いたいのだろうか。朝日新聞毎日新聞も、パレスチナ人が「イスラエル治安部隊」に暴力的に扱われたことについてはSNSに「拡散」した情報としてのみ伝えているが、上述したイスラエルによる襲撃の情報は、パレスチナ占領地の人権状況に関する国連の特別報告者、フランチェスカ・アルバネーゼの報道発表でも確認できる。
 この襲撃に対する報復として、ガザとレバノン南部の武装勢力イスラエルに対してロケット弾を発射したわけだが、朝日新聞は、

「ロケット弾による攻撃について、イスラエル軍の報道官は、レバノン南部に拠点を持つハマスの関連組織によるものとみている」、
「また、レバノンイスラムシーア派組織ヒズボラが、今回のロケット弾攻撃に関与したとの観測もある。ヒズボライスラエルと敵対するイランの支援を受ける組織で、イスラエル軍とは過去に戦闘を繰り広げてきた」、

毎日新聞は、

イスラエル軍は、ハマスヒズボラの許可を得て、レバノン南部からロケット弾を発射したとみている。また、ハマスヒズボラを支援するイランの関与も指摘されている」

などと、イスラエル側の見方に基づいてパレスチナ側からのロケット弾発射について説明した後、記事の結びでイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相の発言をそれぞれ次のように紹介している。記事にはネタニヤフに対する批判的な言葉は皆無で、まるで、イスラエルにはパレスチナレバノン空爆する権利があるかのような書き方だ。

イスラエルのネタニヤフ首相は6日夜、『イスラエルは今夜も、そしてその後も敵に大きな代償を払わせるだろう』と話した」

イスラエルのネタニヤフ首相は6日夜、『我々は連帯し、暴力を使う過激派に厳しく対抗する』と強調。その後、イスラエル軍レバノン南部やガザ地区にあるハマスの軍事拠点を空爆した」

 前述のように、イスラエルは1967年の「第三次中東戦争」以来、国際法や国際社会の非難の声を無視してパレスチナの占領を続けている。占領地でイスラエルパレスチナ人の土地の略奪とユダヤ人の入植を続けている。パレスチナ人に対する不当な拘束や殺害は絶えず、昨年1年間だけでも200人以上が、今年に入ってから既に94人がイスラエルの占領軍に殺害されている。
 このような状況下でイスラエルへの武装闘争を続けるハマスパレスチナイスラム聖戦など非占領地のパレスチナ組織は、占領軍に対するレジスタンス(抵抗組織)である。彼らをテロ組織と見做すのは占領軍のイスラエル側の立場からの見方だ。
 ロシアによるウクライナ侵略では、マスメディアはウクライナ側の軍事的抵抗や欧米のウクライナに対する軍事支援を支持していなかったかだろうか。なぜウクライナレジスタンスに用いるのと同じ基準を用いてパレスチナレジスタンスを支持しないのか。なぜプーチンに対するのと同じ基準でネタニヤフを非難しないのか。ウクライナの時とは反対に、パレスチナのニュースを侵略者側のイスラエルの立場から伝えるのはなぜなのか。マスメディアの国際法の解釈や人権に関する基準は誰が加害者であるかによって変わるのか。

 パレスチナに対するイスラエルの暴力は日常的に続いている。ガザへの空爆も今回が初めてではない。今年に入ってからだけでもイスラエルは既に少なくとも3回ガザを爆撃している。他国に対する武力行使も珍しいことではく、例えばシリアに対しては、2月のトルコ・シリア大地震後だけでも、9回の爆撃を行っている。イスラエルパレスチナやシリアのゴラン高原の占領を続け、日常的にパレスチナや近隣諸国への暴力を続けられるのは、マスメディアがその罪を咎めずに黙認していることも一つの大きな要因だろう。少しは責任を感じてもらいたいのもだ。
 それとも、ウクライナへの空爆ウクライナ人が殺されるのはいけないが、パレスチナレバノンに対する空爆イスラム教徒が死ぬのはかまわないと考えているのだろうか。