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── Media Watchdog Group

どうしても偽情報と中国を結び付けたいNHK

 NHKニュース7(23/12/23)は、証拠もないのに、来年早々に行われる台湾総統選挙で中国政府が自国に有利な候補を勝たせるために、偽情報を流して選挙に干渉しているかのような印象を与える放送を行った。

 「3週間後に迫った台湾総統選挙。台湾への圧力を強める中国との向き合い方が大きな争点になる中、フェイク、偽情報が飛び交う事態になっています」

 ニュース冒頭でこのように述べて、「中国と対立する与党の候補」と「中国との交流に積極的な野党候補」の合わせて3人が選挙に立候補していると説明した後、ニュース7は実際には行われていない偽の世論調査を用いて候補者の支持率を捏造した「ネットメディア」の記事や、AIを用いた候補者の発言に関する偽動画、「不審なアカウント」の使用者によるSNSへの蔡英文政権に対する批判投稿の増加などを伝えているが、その中で、

「特定の候補者を当選又は落選させる意図があり、中国共産党の当局者から指示を受けた疑いが強まった」

という台湾の検察の見方や、

「中国が世論調査の他にも様々な手段で選挙への介入を企てている」

と主張する「台湾当局」、それに、

「台湾の選挙に影響を与えようとする彼ら(中国)の企みは成功しないだろう。台湾は民主主義だからだ」

と述べる蔡英文総統の発言など、偽情報に中国政府や中国共産党が関与しているという台湾側の主張を、証拠を全く示すことなく一方的に紹介。
 ところが、ニュース冒頭から中国が偽情報に関与しているかの様な印象を散々与えた後(冒頭の説明についても、これまでのNHKの放送などによって視聴者が抱いている中国に対するイメージから、「台湾への圧力を強める中国との向き合い方が大きな争点になる中」と言うだけで、そのように印象付けるに十分だろう)、ニュースの最後になって、ニュース7は台湾で「フェイクニュース」などの問題に取り組む台湾民主実験室(DoubleThink Lab)の呉銘軒CEOの次のような発言を紹介してニュースを結んでいる。

「発信の背後に誰がいるのか証拠はないが、私たちは事実確認にますます追われるだろう」

 ニュースの大部分を中国が偽情報に関与しているかの様に伝えておきながら、実際には、その証拠はなく、誰がその背後にいるかさえわからないのだ。

 NHKニュースウオッチ9(23/12/13)でも、根拠を全く示すことなく、中国が偽情報に関与していると決めつける放送を行っていた。
 台湾との「農業交流」など、「経済的な利益」を示して「台湾を取り込もう」とする中国政府の政策について伝えた後、ニュースウオッチ9台湾総統選挙に関する偽情報がインターネト上で広がっていると説明。そして、

「こうした誤った情報を、誰がどのような目的で発信しているかははっきりしていません」

と断っておきながら、続けて、

「台湾では中国が偽情報によって選挙に介入してくるのではないかとの懸念が高まっています」、
台湾総統選での偽情報のリスクについて、中国と対立を深めるアメリカはどう考えているのか」

と述べて、ニュースウオッチ9のインタビューに「どこの選挙であれ、中国など外部の勢力が選挙に介入することを我々は懸念している」などと答える合衆国のエリザベス・アレン国務次官(ニュースウオッチ9は「アメリ国務省で偽情報対策のトップ」を務めていると紹介)や、中国による選挙介入は望まないというジョー・バイデン大統領の発言など、中国が偽情報を流して選挙に介入していると見立てる合衆国政府の声を一方的に紹介している。
 中国政府に反論の機会を全く与えることなく、「中国と対立を深めるアメリカ」政府の発言だけを伝えるというのは公平性を欠く。また自身も台湾に利害関係を有し、その台湾を巡って「中国と対立を深め」ているだけでなく、これまで武力・経済力・情報力の如何を問わず、世界中で選挙に介入してきた実績のある合衆国政府を、選挙介入や偽情報に関する公平な評定者であるかのように扱っているのも著しい偏向ぶりだが、NHKは合衆国政府の発言を伝えれば視聴者に対して信憑性を高めることができるという自信があるのだろう。最後は中国が偽情報で介入しようとしていると決めつけて、「中国の偽情報による選挙介入に懸念はないのか」との問いに、「台湾は偽情報対策のリーダー」だから心配いらないと答えるアレンのインタビューでの発言を伝えてニュースを終えている。

 中国が偽情報に関与したという証拠を示すことができず、誰が偽情報を流しているかさえもわからない。しかしNHKは、どうしても中国と偽情報を結び付けたいようだ。