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── Media Watchdog Group

欺瞞だらけの広島サミット

 広島出身で核兵器のない世界の実現をライフワークにしているという岸田文雄総理大臣は、広島で開催されたG7サミットで、被爆地広島という地名と被爆者を出しに使って核兵器廃絶と世界平和に向けて尽力しているかのようにアピールした。しかし実際には、G7は自分たちの核兵器を正当化し、ウクライナへの軍事支援強化を宣言して、国際社会が求める核兵器廃絶にもウクライナの和平にも背を向けた。

「大変な失敗だった」、
「広島まで来てこれだけしか書けないのかと思うと、胸がつぶれるような思いがしました。死者に対して大きな罪だったと思います」

 広島で被爆し、その後核兵器廃絶を訴えてきたサーロ節子さんはこのように述べ、G7が発表した「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を批判した。
 当然だろう。「広島ビジョン」でG7が問題にしたのはサミットの場には居合わせていないロシアと中国、それに朝鮮、イランの核兵器だけで、

「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」

と述べてG7メンバー国の核兵器保有と “核の傘” を正当化した。

「ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されない」

と述べる一方で、最近合衆国が日本や韓国などと繰り返し行っている核兵器搭載可能な合衆国の戦略爆撃機を交えた軍事訓練など、「合衆国による核兵器の使用の威嚇」については問題にせず、核兵器不拡散条約(NPT)第6条が核保有国に対して義務づける核兵器全廃に向けた誠実な交渉を履行するようにと「広島ビジョン」が求めているのも、ロシアと中国に対してだけだ。また既に国際的な支持が広がっている核兵器禁止条約には一言も言及がない。

「いちるの望み、希望を完全に打ち砕かれて、今は怒りに震えている。核抑止論に立った議論で戦争をあおるような会議になった」(日本原水爆被害者団体協議会、木戸季市事務局長)

「自分たちの核兵器は『防衛目的』『抑止力』として正当化した。広島、被爆者を踏みにじった」(核兵器廃絶国際キャンペーンICAN)、川崎哲会長)

等々、被爆者や市民社会などから厳しい批判の声が上がる(赤旗23/5/22)。
 岸田文雄は「核兵器のない世界に向けた国際的な機運を高めることができた」と自賛しているが、「広島ビジョン」は市民に対する欺瞞と被爆者に対する裏切りである。

 また岸田文雄は、サミットで「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持していくとの強いメッセージを示すこと」及び、「グローバルサウスと呼ばれる国々との関与を深めること」について「当初の狙い通りの成果が達成できた」と述べているが、これも欺瞞である。
 「法の支配に基づく国際秩序」と言うのであれば、その法は全ての国家に対して等しく適用されなければならない。しかし上述のように「広島ビジョン」でNPTの義務の履行を求めたのは合衆国の公式の敵国であるロシアと中国だけ。またサミットではウクライナの問題に重点を置いて侵略を続けるロシアを強く非難し、ウクライナを軍事的・経済的に支援するG7の結束を強くアピールする一方で、イスラエルによるパレスチナ侵略の問題については「全ての当事者」に対して「入植活動や暴力の扇動を含む一方的な行為」を控えるよう求めるだけで、国際法に反して占領と侵略、人権侵害を続けるイスラエルを非難しなかったし、合衆国によるシリアやソマリアなどへの空爆など、現在も続いている合衆国の侵略行為を問題にすることもなかった。
 このような二重基準は、グローバルサウスなど、日本や欧米以外に住む多くの人々にとっては決して受け入れられない。G7は「我々はルールに従う必要はないが、他の者たちは我々が決めたルールに従え」と宣言しているに等しい。
 また、ウクライナへの侵略を続けるロシアに対する圧力を強めるためにグローバルサウスの取り込みを図るG7だが、ほとんどのグローバルサウスの国々はロシアの侵略を非難しながらも、ロシアへの制裁やウクライナへの軍事支援によってウクライナの軍事的な勝利を目指す日本や欧米のやり方には反対している。マスメディアはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がサミットに参加し、G7が結束してウクライナを軍事的・経済的に支援する決意を世界に示したことを成果として伝えているが、グローバルサウスが求めているのは即時停戦と和平実現に向けた交渉である。ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領(長周23/5/27)はサミット終了後に、

「(グローバルサウスは)和平を見出そうとしているが、ノース(主に欧米諸国)はそれを実現しようとしない」

と述べているが、これが大方のグローバルサウスの受け止めだろう。

 核兵器廃絶や世界平和ということを考えるなら広島サミットは大失敗だったが、G7には端から自分たちの核兵器を全廃する気もなければ、「法の支配」に基づく秩序にも世界平和にも興味はない。彼らが目指しているのは合衆国を頂点とした国際秩序、つまり合衆国の覇権の維持であり、そのためには世界の平和も人々の生活も犠牲にして、ロシアと中国を弱体化させなければならないと彼らは考えている。G7サミットのようなイベントは、民主国家を売りにしているG7諸国の権力者にとって、合衆国とその “同盟国” が世界の平和と発展に向けて国際社会をリードしているかのように市民を欺いて、市民の利益に反する政策に対する市民の同意を取り付けるための絶好の機会である。サミットに抗議する声を完全に無視し、「歴史的」なサミットとしてほとんど無批判にニュースを伝えて広島サミットを盛り上げた自信からか、マスメディアはサミット閉幕直後から岸田政権の支持率が上昇すると予測し、解散総選挙の憶測まで飛び交ったが、G7首脳陣の思惑通りにいくかどうかは、今後の市民の力にかかっている。