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── Media Watchdog Group

イスラエルによるパレスチナ侵略のニュースで改めて示されたマスメディアの露骨な二重基準

 「差し迫った脅威」に対する「対テロ作戦」と称して、イスラエルパレスチナガザ地区空爆した。反撃したパレスチナイスラム聖戦との停戦合意成立で戦闘は3日間で終了したが、少なくとも子ども15人を含む44人のパレスチナ人が殺害された。犠牲者が “価値観” を共有する欧米の白人ではなくて西アジアの貧しいパレスチナ人だからなのか、加害者が欧米と敵対するロシアではなくて合衆国が後ろ盾となっているイスラエルだからなのか。恐らくその両方が理由なのだろうが、マスメディアはイスラエルによるあからさまな侵略行為に対してほとんど関心を示さず、イスラエルを糾弾する声もパレスチナ人の人命擁護を世論に訴える掛ける声も、そこには存在しない。

 例えば、毎日新聞(三木幸治、22/8/7)は、「イスラエル、ガザ空爆 イスラム過激派幹部ら狙い」という見出しで、イスラエルによる「対テロ作戦」としてニュースを伝えている。5歳の子どもを含む一般市民も犠牲になっていることを伝えてはいるが、あくまで「ハマスと連携するイスラム過激派『イスラム聖戦』を狙った攻撃」であり、

イスラエル軍は、イスラム聖戦が対戦車砲イスラエルへの攻撃を始める『具体的な』情報があるとして、先制攻撃に踏み切った。イスラエル軍はこれまでに『約15人のテロリスト』を殺害したとしている」

などと、何の疑問を呈することもなく、イスラエル側の発表を紹介している。
 朝日新聞(高久潤、22/8/7)も、二段抜きの短い記事の中で、

イスラエルのラピド首相は5日夜のテレビ演説で、『差し迫った脅威に対して、適切な対テロ作戦を実施した』と先制攻撃の理由を説明。同組織がイスラエルにミサイルによる攻撃の準備を進めていた、とした」

などと伝え、イスラエル側に正当性があるかのような印象を与えている。
 また、すぐに停戦が成立──ただし停戦後もイスラエルによる暴力は続いている(Democracy Now22/8/922/8/10)──したとはいえ、ロシアによるウクライナ侵略では連日長時間にわたって侵略される側の立場からニュースを伝えてきたNHKニュース7ニュースウオッチ9は、今回のイスラエルによるパレスチナ侵略を完全に無視した。
 イスラエルに肩入れしてパレスチナの人命を軽視するマスメディアの報道は、今回が初めてではない。250人以上が犠牲(95%がパレスチナ人)になった昨年5月のイスラエルによるガザ侵略では、イスラエルの攻撃はハマスのミサイル攻撃に対する「報復」だと説明して、自衛を主張するイスラエルに配慮した形でニュースを伝えていた。また今年5月にイスラエル軍が取材活動中のパレスチナアメリカ人のジャーナリストを銃殺した事件は、世界的な注目を集めたが、日本のマスメディアはほとんど注目しなかった。事件について伝えたメディアは、現場の状況や証言などからイスラエル軍による犯行であることが明らかだったにもかかわらず、証拠を挙げることなくパレスチナ武装勢力の銃撃によるものだと主張するイスラエル側の見解にも同等の信憑性があるかのように伝えていた。

 イスラエルによるパレスチナ侵略のニュースの伝え方を、ロシアによるウクライナ侵略のニュースと比較してみよう。
 ウクライナ侵略のニュースでは、ウクライナ東部のロシア系住民を保護する必要があるとか、ウクライナをネオナチから解放することが目的だなどと述べて侵略を正当化するロシア側の主張を、マスメディアは「フェイク・ニュース(偽ニュース)」と評価して全く受け付けず、ロシアの侵略を国際法違反と厳しく糾弾し、侵略された側のウクライナ市民の声を数多く伝えて、被侵略国であるウクライナへの共感を誘っていた。ところが、パレスチナ侵略のニュースでは、イスラエル国際法違反は全く問題にされず、逆に「差し迫った脅威」に対する「対テロ作戦」だとか「自衛」だなどと言った説明でイスラエルの蛮行が正当化され、被害国側のパレスチナ市民の声が伝えられることも少ない。
 しかしパレスチナではイスラエルが軍事力によってパレスチナを占領し、国際法に反して占領地への入植を続けている。そして殺害や家屋の破壊、土地収奪など、パレスチナ人に対するイスラエルの暴力は日常茶飯事だ。こうした状況を踏まえてウクライナ侵略と同じ基準をパレスチナに用いるなら、ハマスパレスチナイスラム聖戦は「テロリスト」ではなくて「レジスタンス(抵抗組織)」、「解放者」ではないか。イスラエルの「自衛」の論理はロシアのプーチン大統領と同じ論理だ。

 ロシアによるウクライナ侵略と、イスラエルによるパレスチナ侵略のニュースの伝え方のこの違いは一体何だ。マスメディアは、合衆国が支援するイスラエルには国際法が適用されないとでも考えているのだろうか。マスメディアにとって、パレスチナ人の生命はウクライナ人と比べて、それ程にも軽いものなのだろうか。
 その二重基準なんだ。ウクライナ侵略への対応や対中国政策で、国際社会から日本や欧米に対する支持が得られない理由は。
 ウクライナを侵略したロシアに対する国連総会の非難決議を棄権した南アフリカのナレディ・パンドール外相は、合衆国との外相会談後の共同記者会見で、ブリンケン国務長官ウクライナを侵略したロシアを批判した後、次のように述べた。

「ロシアとウクライナの問題ですが、南アフリカには戦争を支持する人はいません。 私たちはそのことをはっきりと表明してきました。……
 私たちは、国連憲章と国際人道法と密接に関連する全ての原則は、一部の国家だけでなく、全ての国家のために支持されなければならないと考えています。ウクライナの人々がその領土と自由に値するのと同様に、パレスチナの人々もその領土と自由を得るに値します。そして、私たちは、ウクライナの人々に何が起こっているのかと同様に、パレスチナの人々に何が起こっているのかについても同様に懸念すべきです。
 私たちは、国際法の規定の活用において、公平なアプローチを見たことがありません。私たちは、世界が他の誰に対しても平等であることを保証するために、より大きな関心を持つべきだと奨励します」