Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

ロシアとウクライナの戦争で注目すべきは反転攻勢ではなくて戦争終結に向けた国際社会の動き

 ロシア・ウクライナ戦争の終結に向けた中国やブラジルなどの動きをよそに、マスメディアはウクライナの反転攻勢が近いと繰り返し、読者や視聴者に対して、交渉よりもウクライナが軍事力によってロシアを押し返すことに注目するよう仕向けている。

 例えばNHKは、

「この春以降のウクライナの反転攻勢に関心が集まっています。その中で気になるのが、今後の戦闘の行方ですよね」ニュースウオッチ9、23/3/17)

ウクライナ軍の大規模な反転攻勢の時期が今、焦点となる中」ニュースウオッチ9、23/3/30)

「大規模な反転攻勢に出る構えを見せるウクライナ。その鍵となる兵器が到着しました」ニュースウオッチ9、23/4/20)

ウクライナは、いつ反転攻勢に乗り出すのか。専門家は」ニュース7、23/5/1)

「その反転攻勢はいつ始まるのか。今、情報戦が繰り広げられています。ウクライナ側のねらいについて、専門家と共に読み解きます」ニュースウオッチ9、23/5/1)

などと、ウクライナによる反転攻勢のタイミングやそのための欧米の軍事支援にばかり焦点を当てる一方で、停戦仲介に動く国際社会や即時停戦を求める市民社会の声についてはほとんどまともに伝えようとしていない。中国政府が2月にウクライナ危機の政治的解決に向けた提案を行った際には、端から検討に値しない提案と決めつけてニュースを伝え(Bark at Illusions23/3/9参照)、その後、中国政府が「平和の旅」と称して習近平国家主席がロシアを訪問した際には、和平の可能性を話題にするよりもロシアへの軍事支援を協議するのではないかと疑いを掛けたり(ニュース7、23/3/20、23/3/21;ニュースウオッチ9、23/3/20、23/3/21)、中国とロシアの関係の近さを強調して仲介役としての中国に疑義を呈することに重きを置いていた(ニュース7、23/3/20;ニュースウオッチ9、23/3/20、23/3/21)。また、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が戦争終結のための「平和クラブ」の創設に向けて動いていることについてはニュース7もニュースウオッチ9も全く伝えていないし、そのルラと習近平が首脳会談でウクライナの和平に向けて協議をしたニュースも両番組は無視した。
 他のマスメディアも同様で、戦争終結に向けた国際社会の動きを歪曲するか過小評価し、ウクライナの反転攻勢や欧米による軍事支援にばかり注目している。

 しかし、今必要なことは「反転攻勢」のための軍事支援ではなくて、戦争を終結させるための停戦と交渉である。ロシアとウクライナ、双方ともにこの戦争で完全に勝利することは出来ないというのが多くの識者の一致した見方であり、いずれは戦争終結のための交渉が必要になるだろう。戦争継続はさらなる犠牲者とウクライナ領土の破壊を意味する。戦争が拡大すれば核戦争につながる懸念もある。また周知のように、戦争とそれに伴う対ロシア制裁の影響は、食料やエネルギー価格の高騰を招き、既に中低所得国を苦しめている。
 即時停戦すればロシアにウクライナ領土の占領を許すことになるなどと誤解している人も多いようだが、停戦は降伏ではない。和平に向けた交渉のために戦闘行為を中断するということだ。何よりも、これ以上の殺戮と破壊を止めることが必要なのだ。

 合衆国では今月、退役軍人や国家安全保障専門家のグループがロシア・ウクライナ戦争の外交的終結を求める公開書簡を発表した。日本でも既に国際政治や紛争問題の専門家らが即時停戦を求める声明を発表するなどしている。
 本当にウクライナの事や世界の平和について真剣に考えているのなら、反転攻勢ではなく、こうした市民社会の声や戦争終結に向けた国際社会の動きにもっと注目しなければならない。