Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

「ロシア寄りの立場」でウクライナ情勢を伝える中国のメディアを問題視する欧米寄りのニュース7

 NHKニュース7(22/4/15)は、中国のメディアがウクライナ情勢をどのように伝えているか紹介した。中国中央テレビCCTV)を例に、中国のメディアは「ロシアに配慮する姿勢」の中国政府と足並みを揃えて、「一貫してロシア寄りの立場でニュース」を伝え、「アメリカと対立するイランの専門家」や「ロシアの政党関係者」を出演させて、「アメリカやNATO北大西洋条約機構に対する批判を展開」していると説明している。

 ニュース7(22/4/15)は、CCTVウクライナ情勢について、

「ロシア政府はロシア南西部……でウクライナ軍から攻撃を受けたと発表した」、
アメリカは資金と武器の提供などを通じ、戦争を長引かせている」

と伝えているのを紹介した後、ウクライナに侵略したロシア側にも理解を示す北京市民の声なども伝えて、中国メディアの報道が如何に偏っているかということを示そうとしているのだが、ウクライナ情勢を巡るニュースの偏向ぶりなら、ニュース7も負けていない。
 ニュース7は、一貫して欧米の見解に沿ってニュースを伝え、ロシア側の主張は全て偽情報ということが前提になっている。ウクライナ軍を構成するアゾフ大隊がネオナチだという事実(Bark at Illusions22/5/2)も、ウクライナ政府軍が東部ドンバス地方の多くの住民を虐殺してきたという事実(Bark at Illusions22/3/18)も、NHKにとっては全て「フェイクニュース」なのだ。
 当然、ニュース7に出演する解説者も、防衛省防衛研究所の職員や戦略国際問題研究所CSIS)の元研究員など、欧米寄りの立場からニュースを解説する専門家ばかりだ。ロシアがウクライナに侵略した2月24日から5月7日までの期間にニュース7で解説に当たった主な専門家の出演回数は、防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長が14回、慶應義塾大学の廣瀬陽子教授(元CSIS客員研究員)が11回、筑波大学の東野篤子准教授(ウクライナ研究会副会長)が8回、防衛省防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長が2回、防衛省防衛研究所の長谷川雄之研究員が2回、などとなっている。防衛省の職員が “同盟国” の合衆国と同じ見方で情勢を伝えるのは当然だが、廣瀬陽子が所属していたCSISは合衆国政府や軍事関連企業から資金提供を受ける合衆国の右派シンクタンク。東野篤子が副会長を務めるウクライナ研究会の会長は、ウクライナの極右勢力やネオナチとも交流がある神戸学院大学の岡部芳彦教授だ。当然、彼女らの見方も、合衆国政府やウクライナ政府の見解を反映したものとなるだろう。例外は、ロシアがウクライナに侵略した最初の日に解説に当たった神奈川大学の下斗米伸夫教授(ニュース7、22/2/24)だが、NATOの東方拡大を今回の侵略の要因として強調したり、「いろんな国内の事情」からウォロディミル・ゼレンスキー大統領がミンスク合意を守らずに「ふらふらしてたのが、紛争を招いちゃった」などと述べたことが、ロシア側の主張を全て否定するNHKの方針に合わなかったのだろう。それ以降、下斗米伸夫は一度もニュース7に出演していない。
 また、今回のロシアによるウクライナ侵略に対するマスメディアの反応と、合衆国によるイラクアフガニスタンなどへの侵略に対するマスメディアの反応の違いを問題視している人は少なくないのだが(毎日22/5/2)、そうした世論を意識してか、NHKヨーロッパ総局長の田端祐一(ニュース7、22/4/16)は、

イラクアフガニスタンでも、一般の市民が標的になりましたが、それは武装勢力やテロ組織が恐怖心を煽るためにやったことです」

などと嘘をつくあり様だ。これについては、何も説明する必要はないだろう。

 ところで、中国政府がロシア寄りだというニュース7(22/4/15)の見方は正しくない。中国政府はロシアを非難する国連決議を棄権し、欧米が呼びかけるロシアへの経済制裁にも参加していないが、一貫して紛争の即時停戦を求め、ウクライナに対する人道的支援を行っている。またニュース7(22/4/15)は中国政府がロシアを「擁護」している一例として、ブチャの虐殺を受けて合衆国などが提案した国連人権理事会におけるロシアの理事国としての資格停止を求める決議に中国政府が反対したことを挙げているが、ブチャの虐殺をロシアによる犯罪と断定するには多くの疑問点が残る中で(Bark at Illusions22/4/12)、人権理事会の調査委員会による調査を待たずに行われた同決議案の採決には、複数の国家から時期尚早との声が上がり、中国を含む24か国が反対し、58か国が棄権した。無罪推定が原則の現代の司法制度で、中国の反対は適切な判断だったと言えるだろう。
 国際社会におけるロシアの孤立を目指す欧米の方針に同調しなければ「ロシア寄り」と捉える風潮が日本や欧米社会にはあるが、制裁やウクライナへの軍事支援強化でロシアに対する合衆国やNATO諸国と、即時停戦と交渉による和平実現を求める中国のいずれの方針が戦争を終結させるうえで近道なのか、考え直してみるべきだ。欧米のやり方ではロシアの侵略を止めることは出来ないし(Bark at Illusions22/4/27)、ウクライナの戦争でロシアを「弱体化」させることが目標だと述べている合衆国政府(ロイド・オースティン国防長官)には、最初からウクライナでの戦争を終わらせる気などないのだ。

 従って、ニュース7が「ロシア寄り」だと評価する「アメリカは資金と武器の提供などを通じ、戦争を長引かせている」というCCTVの指摘や、NATO諸国に対するCCTVの批判は正当なものと言えるだろう。
 CCTVが全体としてどのようにウクライナ情勢を伝えているかは知らないが、ニュース7から知り得る限り──CCTVが偏向していることを伝えたかったニュース7は、CCTVの放送の中から最も偏向しているとニュース7が考える場面を紹介していると考えるのが妥当だろう──欧米寄りの立場から一貫してニュースを伝え、停戦に向けたロシアとの交渉ではなく、ロシアへの制裁やウクライナへの軍事支援の必要性ばかりを強調しているニュース7よりも、CCTVの方がよっぽど公正な報道をしているように見える。