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── Media Watchdog Group

ニュースウオッチ9がインタビューしたヌーランドには要注意

 ニュースウオッチ9(22/7/26)は、ウクライナ情勢や中国との関係について、来日中のビクトリア・ヌーランド合衆国国務次官への独占インタビューを行った。

 ニュースウオッチ9は、ヌーランドについて、

「30年以上のキャリアを持つ外交官で、アメリカ政府のヨーロッパやロシアに関する政策に携わってきました」、
「ヌーランド国務次官は、今のアメリカのウクライナ政策の中心人物です。……ウクライナで親欧米路線を掲げる政権の成立を後押ししてきました。2014年にロシア寄りの政権を崩壊させた大規模な市民の抗議活動。ヌーランド氏は、国務省高官として、この民主化の動きを支援していました」

などと説明し、ウクライナ情勢に関する質問に対して、

ウクライナの人たちは、私たちがロシアにかけた圧力だけではなく、軍事支援もあって持ちこたえています。問題は今後、私たちの支援でウクライナが秋に反撃し、ロシア軍を押し戻すことができるかどうかです」、
「私たちが目指すのは、それは日本も同じだと思いますが、ウクライナが自由、民主的な主権国家として存続し反映することです」

などと答えるるヌーランドを紹介。ヌーランドはさらに、「大切なのは、私たちがG 7として共にあること」だと述べて、中国を念頭に、

「これは単にウクライナにおける法の支配や国家の主権、領土保全民族自決の問題だけではない……日本の近くにも強大な権威主義の国があります。世界の民主主義国家が、私たちに民主主義を守る決意があるのかを見定めようとしています」

と主張し、

「私たちはウクライナの自由を守ろうと結束する時にも、 同時に中国に対して私たちが 自由で開かれた太平洋を守るという姿勢を確実に示す必要があるのです」

と述べて、来年 “G7” の議長国となる日本は対中国で役割を果たすべきだと主張する。
 そしてインタービュー内を紹介した後、

田中正良キャスター:「印象を受けたのは、結束という言葉ですね。……ロシアの侵略に明確にノーを突きつける日本・ヨーロッパの結束が、今こそ重要だと話していました」
青井実キャスター:「その結束に向けて、ヌーランド国務次官は、来年のG7の議長国、日本の役割が重要だと述べていましたよね」
田中正良:「その通りですね。来年はG7、さらに国連の場でも、日本の役割が高まります。アメリカの考えを理解する一方、対立する国々との橋渡しも求められていると感じました」

などと述べて、結んでいる。

 このニュースウオッチ9の説明とヌーランドの主張は、決して真に受けてはならない。
 ニュースウオッチ9は、ヌーランドについて、あたかも自由と民主主義を擁護する尊敬すべき指導者であるかのように描いているが、事実はその逆だ。
 ニュースウオッチ9が説明する「2014年にロシア寄りの政権を崩壊させた大規模な市民の抗議活動」とは、民主的な選挙で選ばれたヤヌコビッチ政権がクーデタで崩壊した事件のことだ。ウクライナでは2013年にヤヌコビッチ政権がEUとの連合(AA)協定締結のための交渉を中断してロシアとの関係を強化する方針を決めたことに対する抗議デモが行われたが、デモが平和的だったのは最初のうちだけで、数週間後には極右やネオナチの組織が加わり、デモは暴徒化した。合衆国は極右やネオナチを支援し、ウクライナの「非同盟」の立場を法制化したヤヌコビッチ政権をを崩壊させ、新欧米派の政権をウクライナに樹立させた。この合衆国政府の企ての中心にいたのがヌーランドで、ヌーランドはクーデタ後の内閣の首相指名まで行っている(BBC14/2/7)。
 つまり、ニュースウオッチ9が言うように、ヌーランドが「ウクライナで親欧米路線を掲げる政権の成立を後押ししてき」たのは事実だが、それは暴力的なクーデタによってであり、「民主化の動きを支援」していたわけではないのだ。ニュースウオッチ9は、2014年の政変について、

プーチン大統領は当時、ロシア寄りの政権が倒されたこの一連の抗議活動を、アメリカの支援を受けたネオナチによる政権奪取だと強く非難しました」

と述べて、クーデタが偽情報であるかのように伝えているが、プーチンの主張の方が、ニュースウオッチ9よりも真実に近い。民主的に選ばれたウクライナの政権を転覆させ、現在のウクライナでの戦争につながる内戦へと導いた張本人であるヌーランドに、「私たちが目指すのは、……ウクライナが自由、民主的な主権国家として存続し反映すること」などとふざけたことをぬかすのを許してはならない。
 また、ヌーランドはウクライナへの軍事支援を続けてロシア軍を退却させることができるかどうかが問題だと語っているが、国際社会では即時停戦を求める声が少なくない。ニュースウオッチ9(22/6/4、22/6/11)も伝えているように、“G7” の中でもフランスとイタリア、ドイツは早期停戦を望んでいる。戦争の拡大やさらなる犠牲者を生み出すことになる戦争継続を擁護するこのような見方は、あくまでロシアを「弱体化」させるまでウクライナに戦争を続けさせたい合衆国政府(ロイド・オースティン国防長官)の立場からの見方であって、それがロシアによるウクライナ侵略に対する唯一の正しい考え方ではないことに注意が必要だ。

 ところで、長年「ヨーロッパやロシアに関する政策に携わってき」ヌーランドは、日本に何をしにやってきたのだろう。ヌーランドもニュースウオッチ9も、“G7” の「結束」の重要性を強調し、日本の役割に期待を示しているが、今度は「中国の弱体化」のために日本を戦場にするつもりだろうか。
 クーデタを企ててウクライナに壊滅的な危機をもたらす原因を作ったヌーランドと、彼女を自由の擁護者であるかのように偽って好戦的な合衆国政府の一方的な見方を喧伝する “公共放送” NHKには要注意だ。