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── Media Watchdog Group

日本が懸念すべきはマクロンの発言ではなく、日本政府の対米追随

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、ヨーロッパにとって「台湾問題」の優先順位は高くないと述べ、ヨーロッパの「戦略的自律」の重要性を強調したことが注目を浴びた。

 マクロンは中国訪問中のインタビュー(Echos23/4/9)で、

「台湾問題を加速させることが得策なのか。否。最悪なのは、ヨーロッパがこの問題で追随者にならなければならないと考え、合衆国のリズムや中国の過剰反応に適応しようと考えることだ。……我々が優先するのは、世界のあらゆる場所で他者の政治課題に合わせることではない」、
「理屈に合わないのは、ヨーロッパが正真正銘の戦略的自律の基本原理を整えようとしている時に、一種のパニック反射から合衆国の政策に追随することだ」

などと述べた。
 この発言後にフランス議会の上院と下院の議員団が相次いで台湾を訪問していることを考えると、マクロンの言う「戦略的自律」は疑わしいが、マクロンの発言自体は、国民国家という制度の下で一つの主権国家として当然のことを述べているに過ぎない。また台湾情勢の緊張の高まりや中国の台湾に対する武力行使を懸念するなら、ヨーロッパ諸国が「台湾問題」に関与しないことは良いことだろう。しかしマクロンの発言は欧米の一部の政治家などから非難され、マスメディアも問題発言として伝えている。
 例えばニュースウオッチ9NHK、23/4/17)は、フランスが「台湾問題」で米中のどちら側にもつかないなら「我々も……中国や台湾問題に専念すべき。ウクライナ問題は欧州が対処すればよい」と憤る合衆国の上院議員の声を紹介し、「ウクライナの戦争で日本や欧米の結束が求められる中でのマクロン大統領の発言」に懸念を示している。また毎日新聞23/4/13共同)は、「台湾情勢、米中に追随せず 仏大統領発言、欧米から批判」という見出しで、マクロンの発言は、

「欧米から強い批判を招いている。中国が大規模演習で台湾を威嚇する中、米中両国に対して不適切なメッセージとなるとして、自国内でも『失策』(フィガロ紙)と指摘されている」、
「中国を専門とするフランスの研究者アントワーヌ・ボンダズ氏はツイートで『米国だけに緊張の責任を負わせるのは分析の完全な誤り。タイミングも最悪』と問題点を挙げた」

などと、マクロンを非難する声だけを一方的に伝えている。

 まず基本的なことを確認しておくと、台湾を国家と承認しているのは世界で僅か13か国で、それ以外の大多数の国家が台湾は中国の一部だという中国の主張(「一つの中国」)を認めている。それは日本や合衆国も同じだ。
 台湾に関する日中両政府の合意については省略するが、合衆国政府は中国との国交正常化の過程で「一つの中国」を主張する中国政府の立場に「異議を唱えない」と宣言し、「中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての合衆国政府の関心を再確認」した(上海コミュニケ、1972年)。そして米中両政府は、合衆国政府が「中華人民共和国(中国)政府を中国の唯一の合法政府」として「承認」した上で、その枠組みの「範囲内」で、合衆国と台湾の「人民」が「文化的、商業的、その他の非公式な関係を維持する」ことで合意した(外交関係樹立に関する共同コミュニケ、1979年)。さらに国交正常化後の1982年の共同声明(8・17コミュニケ)で、合衆国政府は台湾が「中国の一部」だという中国側の立場を認めていることを再確認した上で、「中国の内政に干渉する意図」はないと明言し、台湾への武器売却についても、「次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導く」と約束している。
 合衆国は連邦議会議員が台湾を訪問して台湾政府と軍事面や経済面などで協議を行ったり、台湾への武器売却や軍事指導などを続けているが、こうしたことは全て中国との合意に明白に違反している。マスメディアはいつも、中国が一方的に台湾に対する軍事的・経済的圧力を強めているかのように伝えているが、台湾に対する中国の圧力は、ほとんどが合衆国の合意違反がきっかけとなっていることを忘れてはならない。
 従って「台湾問題」とは大雑把に言って、合衆国が中国との約束を守るかどうかということに尽きる。それ以外のことは中国と台湾の間の問題──中国政府と、「一つの中国」を認めている大多数の国家にとっては中国の国内問題──である。合衆国が介入さえしなければ、中国が台湾に軍事力を行使することはないだろう。マスメディアは中国政府が台湾への武力行使を排除していないことを根拠にして中国の武力行使の可能性をことさら強調し、中国による台湾 “侵略” が近いと予測する合衆国政府や軍関係者らの見方を繰り返して、中国の台湾武力統一が間近に迫っているかのような印象を与え続けているが、中国政府は同国が武力を用いるのは台湾が外国勢力と結託して独立を企てた場合だけだと繰り返し説明している(例えば2022年10月の中国共産党大会で行われた習近平による活動報告)。つまり合衆国が中国との合意を守って台湾に対して干渉しなければ武力行使は有り得ないのだ。日米両政府やマスメディアなどが気に掛ける「台湾海峡の平和と安定」は、合衆国が中国との合意を守るかどうかということにかかっている。フランスなど諸外国が合衆国に「追随」して「台湾問題」に介入するなら、それこそ中国の武力行使を招くことになるだろう。
 それから、合衆国の対中国政策と距離を置こうとしているのはマクロンだけではないということを指摘しておきたい。例えば、シャルル・ミシェル欧州理事会議長マクロンに同調し、合衆国の政策から離れてヨーロッパの「戦略的自律」を追求すべきだと考えるEUの指導者は少なくないと明かしている(POLITICO23/4/11)。またシンガポールのリー・シェンロン首相は今年3月に行われた習近平国家主席と首脳会談で、「台湾問題は中国の内政であり、『今日のウクライナ、明日の台湾』を鼓吹することは予測できない深刻な結果をもたらすだろう」と述べて、「台湾有事」を想定して軍拡を続ける日本や合衆国を暗に批判している(CRI23/3/31)。

 合衆国は今、日本やオーストラリアなどと共に中国と戦争をする準備をしている。現在、合衆国はロシアを「弱体化」させるために(ロイド・オースティン合衆国国防長官)ウクライナで代理戦争を続けているが、合衆国戦略軍司令官のチャールズ・リチャード海軍大将によれば、「現在のウクライナ危機は準備運動に過ぎ」ず、もうすぐ「大きな別の危機がやって来る」のだそうだ。そして第三海兵遠征軍司令官のジェームズ・ビアマン中将は、「われわれは……[対ロシアでウクライナでやったのと同じように]日本やフィリピンなどでも舞台作りをやっている」(第三海兵遠征軍司令官、ジェームズ・ビアマン中将)と述べた。リー・シェンロンが「台湾問題」における「予測できない深刻な結果」を懸念するのは当然だろう。
 さて、日本はどうするか。米軍の辺野古新基地建設や南西諸島などで行われている軍備増強も、岸田政権による軍事費倍増などの大軍拡も、全て中国との戦争に備えるためだ。このまま合衆国に「追随」して、中国の「弱体化」と合衆国の覇権のために戦うつもりか。