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── Media Watchdog Group

バイデンは中国の「レッドライン」を探るよりも米中共同コミュニケを遵守しろ

 インドネシアのバリ島で、合衆国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席が対面では初めてとなる首脳会談を行った。米中の対立構図が鮮明になる中、会談では両国間の経済・貿易に関する問題や台湾情勢、気候変動の問題、ウクライナ朝鮮半島情勢など、様々な分野について協議が行われた模様だ。特に注目が集まったのは、合衆国のナンシー・ペロシ下院議長が8月に台湾を訪問して以降緊張が高まっている台湾情勢についてで、マスメディアは「レッドライン」という言葉を用いて説明している。

「今回の会談なんですけど……こう表現してみました。……レッドラインの探り合いです」(田中正良キャスター、ニュースウオッチ9NHK、22/11/14)

「今回の会談で両氏が目指したのは、互いの『レッドライン』(越えてはならない一線)を正確に把握することだった。
 バイデン氏は9日の会見で『レッドラインがどこにあるのか、最も重要なことは何かを理解する必要がある』と強調した」朝日22/11/15

台湾海峡をめぐる軍事的な緊張が高まる中で、バイデン氏は互いの『レッドライン(越えてはならない一線)』を探り、大国間競争の管理を図った」毎日22/11/15

 しかしバイデン政権が台湾や東アジアの平和と安定を望んでいるのなら、相手の「レッドライン」を探るよりも、米中関係の基礎である米中共同コミュニケを遵守すべきだ。
 米中国交正常化に際し、合衆国政府は1972年の米中共同コミュニケ(上海コミュニケ)で、台湾に関する中国政府の立場に「異議を唱えない」と宣言し、「中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての合衆国政府の関心を再確認」した。そして1979年の「外交関係樹立に関する共同コミュニケ」では、合衆国政府が「中華人民共和国(中国)政府を中国の唯一の合法政府」として「承認」した上で、その枠組みの「範囲内」で、合衆国と台湾の「人民」が「文化的、商業的、その他の非公式な関係を維持する」ことに米中双方が合意した。また合衆国政府は1982年の共同コミュニケ(8・17コミュニケ)で、台湾が「中国の一部」だという中国側の立場を認めていることを再確認した上で、「中国の内政に干渉する意図」はないと明言し、台湾への武器売却についても、「次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導く」と約束した。
 マスメディアはこうした基本的な事実を無視して、中国が一方的に台湾周辺で緊張を高めているかのようにニュースを伝え、裏付けとなる証拠も示さずに中国が台湾の武力統一に向けて動き出す日が近いと繰り返す合衆国側の主張を、あたかも信頼のおける確かな情報であるかのように紹介して、中国の武力行使を発端とする台湾有事が間近に迫っているかのような印象を与えているが、緊張を高める原因を作っているのは合衆国の方だ。
 バイデン政権は言葉の上では合衆国の「一つの中国」政策に変化はないと繰り返しているが、下院議長としてのペロシの台湾訪問も、バイデンが繰り返し肯定している台湾有事の際の合衆国の軍事介入の約束も、台湾への武器売却も、全て、合衆国政府が「一つの中国」を認めた米中共同コミュニケに反する。近年顕著になっている中国軍機による台湾設定の防空識別圏飛行も、ペロシ台湾訪問後に行われた台湾を包囲して威嚇する中国軍の大規模軍事訓練も、全て合衆国側の挑発的な行為に対する対抗措置なのであって、合衆国側が米中共同コミュニケを守ってさえいれば、まず起こり得なかっただろう。
 マスメディアは今年の中国共産党大会で行われた活動報告の演説のうち、習近平が「決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」と述べた部分ばかりを強調しているが、その発言の前後で習近平は「われわれは、最大の誠意をもって、最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしている」、「(武力行使の)対象は外部勢力からの干渉とごく少数の『台湾独立』分裂勢力およびその分裂活動であり、決して広範な台湾同胞に向けたものではない」と述べている。合衆国が中国との約束を守らずに挑発的な言動を繰り返している現状を考えれば、非常に抑制の効いたものと評価できるだろう。つまり合衆国政府が台湾の独立派を支援しなければ、台湾有事など有り得ないのだ。

 バイデンは米中共同コミュニケに反する言動を繰り返しながら中国の「レッドライン」を探るのではなくて、共同コミュニケで中国と約束したことをちゃんと守れ。