Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

軍拡よりも人々の生活のために金を使え

 国連総会第3委員会は先月、朝鮮の人権状況を非難する決議を採択した。日本や欧米諸国などが共同提案国となったその決議の中で、「人民の福利よりも核兵器弾道ミサイルの追及のために資源を流用している」と言って朝鮮政府を非難している。しかし「人民の福利」に使うべき国家の「資源」を軍事費に流用しているのは朝鮮に限った話ではない。

 岸田文雄総理大臣は軍事関連予算を2027年度に対GDP比2%にまで増額し、来年度から5年間の軍事費についても総額43兆円にするよう関係閣僚に指示した。対GDP比2%まで増額するとなると、軍事予算は現在の倍の約11兆円、5兆円規模の増額が必要になる。また5年間の総額43兆円というのは現行の「中期防衛力整備計画」の1.5倍以上で、そのためには新たに約17兆円の財源が必要になる。増税社会保障費の削減は避けられないだろう。与党協議では歳出削減や剰余金の活用、増税などで財源を賄う方針を固めた。岸田文雄は新型コロナ対策の積立金の活用なども検討するとまで言っている。
 既に2012年の自民党の政権奪還以来、日本政府は必要な社会保障費を毎年削減する一方で、軍事費については毎年増額を続けてきた。年金受給額の減額や高齢者の医療費窓口負担の増額など、今年に入ってからも物価が高騰する中で庶民の負担を増やし続けてきた岸田政権だが、今度は桁違いの軍拡を図るためにさらなる社会保障費の削減と増税を行おうとしている。
 また、11月に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)が行われたところだが、オランダのシンクタンクトランスナショナル研究所によると、日本や欧米諸国など、気候変動枠組条約で「附属書II国」と呼ばれ、中低所得国への資金提供の義務を負っている国々は、中低所得国への資金提供の30倍の費用を軍事費のために使っている。気候変動の問題は、人類の存続にかかわる大問題であるにもかかわらずである。附属書II国は2013年から2021年の間に、実に9.45兆ドルを軍事費に費やした。
 今年4月、コロナ禍にもかかわらず2021年の世界の軍事費が初めて2兆ドルを超えたことがニュースになったが、それだけの金を医療や教育、気候変動対策などに使えば、世界中で貧困を解消し、飢餓や、医療にアクセスできずに亡くなる多くの人の生命を救うことができるだろう。

 朝鮮について幾つか指摘しておくと、同国が世界最大の核大国である合衆国と戦争状態にあることを忘れてはいけない。建国以来、核兵器による威嚇も含む合衆国の軍事的な脅威にさらされ続けてきた朝鮮にとって、合衆国による侵略の脅威は現実的なものだ。現在、朝鮮は核抑止力で国家と人民の安全を保証し、社会主義経済建設に集中できる環境を整えて、人民の生活を向上させようとしている。朝鮮の核・ミサイル開発を終わらせたければ、まずは朝鮮戦争終結させ、朝鮮が感じている脅威を解消する必要があるだろう。また、国連が朝鮮に対して科している厳しい経済制裁は、同国の庶民の生活にも深刻な影響を与えている。そのような制裁を科しておきながら、「人民の福利」について朝鮮政府を非難するというのは偽善が過ぎる。

 ロシアがウクライナに侵略して以来、日本や欧米諸国は安全保障を口実に軍備増強を図っている。しかしBark at Illusions22/3/27)などでも指摘したように、ロシアのウクライナ侵略はNATOウクライナの軍拡の結果だ。軍事力で平和を守ることは出来ず、軍拡は地域の緊張を高めて紛争に導くこともあるというのが、ウクライナ侵略から汲み取るべき教訓だ。
 平和で人々が安心して暮らすことができる社会を創造するために、今の流れを変える必要がある。