Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

「反撃能力」保有や軍事予算の増額で日本の安全は守れない

 日本政府は、安全保障環境の変化を口実にして大規模な軍拡を急いでいる。2012年の自民党による政権奪還以来、軍事費は毎年増額を続け、集団自衛権を容認する安保法制の制定や日米 “同盟” のさらなる連携強化、南西諸島の軍事要塞化など、既に著しい軍事力強化を図ってきたが、今度は新たな「敵基地攻撃能力」(「反撃能力」)の保有や、NATO基準の対GDP比2%を目標にした大幅な軍事予算の増額などを目指している。

 ニュースウオッチ9(22/10/13)は、必要な社会保障費が毎年削減され続ける中で軍事予算を倍増させ、戦争につながらないのでなければ地域の緊張を高めることにしか役立たぬ政府の大軍拡方針が、日本の安全を守るうえで必要不可欠であるかのような印象を与えている。
 ニュース冒頭、ニュースウオッチ9は朝鮮による弾道ミサイル発射が最近相次いでいることや、8月に中国が台湾周辺で行った軍事演習で発射した弾道ミサイルが日本近海に着弾したことに言及し、日本周辺の安全保障環境が厳しくなっていることを示唆した上で、防衛省が敵の射程圏外からも攻撃可能なスタンド・オフ・ミサイルの「開発と量産」を目指していることを紹介している。その説明によると、防衛省は「中国の沿岸部や北朝鮮の主要部を射程に収め」るために、自衛隊が既に保有している国産の地対艦誘導ミサイルを改良し、射程を現在の百数十キロから1000キロ以上まで向上させようとしている。
 ニュースウオッチ9は、

「ロシアのウクライナ侵略の開戦時の映像見たろ。あれだけ多数のミサイルを撃ち込まれたら、日本は全て迎撃できると思うか」

とか、

「日本が反撃能力を持つことになれば、北朝鮮にとっても、自分たちも日本に攻撃されるかもしれないということになり、抑止力としては一段上のレベルになる」

などと話す匿名の「防衛所幹部」の談話を伝えて、「反撃能力」の保有が日本の防衛に不可欠だという印象を与える一方で、問題点としては、「反撃能力」の保有で「日本の専守防衛が変質」するのではないか、ミサイルの弾薬庫をどこに置くのか、財源はどうするのか、という点を挙げているだけだ。

 まず「専守防衛」の問題について言うと、日本の国外にある他国の軍事基地や施設を攻撃することが可能な兵器を保有することは、それを「敵基地攻撃能力」と呼ぼうが「反撃能力」と呼ぼうが、武力行使と戦力の保持を否定する日本国憲法第9条に明白に違反する。ニュースウオッチ9は控えめに、「反撃能力」保有で「専守防衛が変質」するのではないかという「指摘」もあると伝えているのだが、正確には「専守防衛」の「変質」ではなくて完全な「逸脱」である。
 またニュースウオッチ9は、「反撃能力」で日本の「抑止力」が「一段上のレベルになる」と主張する防衛省幹部の主張を無批判に伝えているが、「反撃能力」の保有によって日本の安全を確かなものにすることは出来ないだろう。
 中国の “海洋進出” や軍拡の背景には、400以上の軍事施設で中国を包囲し、中国の交易ルートを遮断するための海上封鎖の演習を行うなど、中国近海の西太平洋で軍事演習を繰り返す米軍の存在がある(CounterPunch20/8/4)。また、中国はこの20年以上にわたり、その経済発展と共に軍事費も増大させてきたわけだが、その間、日本は日米安保再定義(1996年)や新ガイドライン(1997年)、それを実現するための周辺事態法(1999年)、自衛隊集団的自衛権行使を容認する安保法制制定(2015年)、辺野古新基地建設や南西諸島の軍事要塞化、「護衛艦」と称して保有してきた艦船の空母化など、合衆国との “同盟” 強化や軍事力強化を図っている。つまり、日本が合衆国と共に “抑止力” 強化の名のもとに行ってきた軍備拡張は、中国のそれを抑止する上では何の役にも立っていないのである。また朝鮮の核・ミサイル開発も、合衆国の侵略に対する抑止が目的だ。朝鮮半島の戦争状態の継続と、合衆国の対朝鮮敵視政策が、朝鮮を核・ミサイル開発へと駆り立てている。最近の米韓の軍事演習に対して、朝鮮が弾道ミサイルの発射を含む軍事訓練や警告射撃で応じていることからも明らかなように、軍事力強化は朝鮮の核・ミサイル開発を止めるどころか、朝鮮に対して逆の作用を及ぼしている。
 従って日本の「反撃能力」の保有は、日本の「抑止力」を「一段上のレベル」に上げるどころか、逆に仮想敵国と見做された中国や朝鮮のさらなる軍拡を誘発し、地域の緊張を高め、場合によっては戦争にもつながりかねない。実際、ロシアによるウクライナ侵略の背景にはNATOの東方拡大とウクライナに対する合衆国の軍事支援があった(Bark at Illusions22/3/27参照)。

 軍事費を倍増する程の金があるなら、高齢化や医療の高度化に伴う医療費の増大や子育て支援、あるいは貧困対策など、今必要とされている社会保障のために使うべきだろう。5兆円を超える日本の軍事支出は世界トップクラスで、日本は既に世界有数の軍事大国である。日本の安全保障について考える時、最も問題視すべきことの一つは、日本政府の外交政策だ。近隣のいずれの国家とも良好な関係を築けていないその外交姿勢を、まずは改める必要がある。