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── Media Watchdog Group

「汚い爆弾」 ロシアの主張は虚偽で、日米欧やウクライナの主張は正しいと判断する理由は何か

 放射性物質を撒き散らす「汚い爆弾」をウクライナが使用する可能性があるというロシア政府の主張について、日本や欧米では、ロシアが自作自演で「汚い爆弾」を使用し、その責任をウクライナに押し付けて戦争拡大の口実にするための偽情報だという見方が広がっているが、それにはマスメディアが一役買っている。

 例えば、ニュースウオッチ9(22/10/25)は、ロシアの主張には「根拠」がないと繰り返して強調し、防衛省は「軍隊が汚い爆弾を使用した例は把握していない」と述べていると伝えた上で、ウクライナによる「汚い爆弾」使用を懸念するロシア政府の主張は「一方的な主張」だと決めつけた後、

「この間違った言い掛りがロシアのさらなる軍事拡大の口実に使われることを懸念。ロシアには汚い爆弾でも核兵器でも、使用するなら重大な結果をもたらすと明確に伝えてきた」(ネッド・プライス合衆国国務省報道官)

「もしロシアがウクライナが何かを準備しているという時、それが意味するのはただ一つ。ロシアが既にその準備をしたということだ」ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領)

「ロシア側が汚い爆弾を使うなり化学兵器を使うなり準備をしていて、そのためにウクライナ側が非人道的兵器を使おうとしている、あるいは使ったんだと、いうような情報戦を仕掛けていると考えるのが、一番可能性の高い仮説」防衛省防衛研究所防衛政策研究室室長・高橋杉雄)

などと述べる合衆国国務省報道官やウクライナ大統領、日本の防衛省研究機関の見方を紹介。さらに続けて、

「国際的な懸念が高まっている汚い爆弾。ただ、高橋さんはロシア側がこの爆弾を使用することは容易ではないと分析しています」

と述べて、ロシアが「汚い爆弾」を使う可能性について解説する防衛省防衛研究所・高橋杉雄の見解を伝えるなど、ウクライナが「汚い爆弾」を使う可能性があるというロシア政府の懸念は、途中から国際社会がロシアによる「汚い爆弾」の使用を懸念しているというお話にすり替わってしまっている。

 ニュースウオッチ9が日米やウクライナ側の主張を信じる理由は何だろう。
 日本や欧米ではロシア側の主張は直ちに「偽情報」として却下され、その詳細はほとんど伝えられることがないからよくわからないが、ロシア政府の意向も反映しているであろうBRICSのウェブサイト掲載の記事が、ロシアは入手したと主張するウクライナによる「汚い爆弾」使用計画に関する証拠をまだ公表していないと書いているから、その根拠が公には示されていないというのは事実なのだろう。しかし、ロシアが自作自演で「汚い爆弾」を使う可能性があるという上記のネッド・プライスやウォロディミル・ゼレンスキー、高橋杉雄の主張も、その根拠が示されているわけではない。ニュースウオッチ9は、ロシア政府の主張には根拠がないということだけ──ロシア政府はウクライナ軍が「汚い爆弾」を「使用した」と言っているのではなく、その「計画がある」と主張しているので、防衛省が「軍隊が汚い爆弾を使用した例は把握していない」と述べていることは、ロシア政府の主張を否定する上では全く意味をなさない情報だ──を理由に「一方的な主張」と決めつけたのと同じように、根拠を全く示していないプライス・ゼレンスキー・高橋杉雄の見方も「一方的な主張」と評価すべきではないか。
 ロシア政府の主張を偽情報として片づけ、ロシアが自作自演で「汚い爆弾」を使用して戦争拡大の口実にしようとしていると主張する日本や欧米の見方が正確な情報であるかの如くニュースを伝えているのは、ニュースウオッチ9に限った話ではない。
 その例をいくつか、見出しだけ挙げると、

「ロシアの戦争拡大、米英仏懸念強める 『ウクライナが汚い爆弾』」朝日22/10/25
「『汚い爆弾』使用に懸念 ロシア、ウクライナで偽旗作戦か」日経22/10/25
ウクライナ侵攻 『汚い爆弾』露が外交戦 『偽旗作戦』欧米警戒」毎日22/10/26

たとえ証拠が示されていなくても、日本や欧米、ウクライナ側の主張の場合はそれが正しいという前提でニュースが伝えられ、それに疑問を呈するマスメディアは皆無だ。

 ウクライナを軍事侵略しているロシアは非難されて当然だ。ウクライナが「汚い爆弾」の使用を計画しているというロシア政府の主張も、証拠が示されていないのだから疑ってかかるべきだろう。しかし、だからと言って、ウクライナや日米欧の主張の場合は証拠がなくても正確な情報として伝えるという偏向ニュースが許されるわけではない。マスメディアは双方の主張について、同じ基準に従って公平・公正に判断し、ニュースを伝えなければならない。