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── Media Watchdog Group

朝鮮のミサイルが日本の「上空」を通過したと騒いで朝鮮の「脅威」を演出する日本政府とマスメディア

 朝鮮が先月4日に日本列島を横断する形で弾道ミサイルを発射させた際、日本政府やマスメディアは大騒ぎをした。日本政府は全国瞬時警報システム「Jアラート」を鳴らして避難を呼びかけ、テレビ局は番組を中断して関連のニュースを放送。その結果、一部の交通機関が運航を見合わせるなど、日本社会に混乱をもたらした。

 しかし日本政府やマスメディアなどが青森県の「上空」を通過したと説明する今回の朝鮮発射の弾道ミサイルは、最高高度が約1000キロと推定されている。国際航空連盟などが宇宙と定義するのは高度100キロ以上、国際宇宙ステーションが地球を周回しているのは高度約400キロだから、朝鮮のミサイルは日本の「上空」と言っても、その遥か上の無重力状態の宇宙空間を飛行しているはずである。そこから日本列島に向かって、何か落ちてこようはずがない。
 日本政府は「弾道ミサイルが日本の領土・領海に落下する可能性又は領土・領海の上空を通過する可能性がある場合」にJアラートを使用すると述べているが、果たして警報を鳴らして市民を避難させる必要があったのだろうか。「日本の領土・領海」に朝鮮のミサイルが落ちてくる可能性はゼロ。ミサイルが通過したのは「日本の領土・領海」の「上空」であることには違いないが、高度100キロ以上は領空ではなく、日本の主権の及ばない宇宙空間であり、日本の国土に何か危険が迫っていたわけでもない。日本の国土の安全を考えるのなら、日本列島の東方数千キロの太平洋沖を目指して宇宙空間を飛行しているミサイルに警報を鳴らすよりも、米軍のオスプレイの飛行をやめさせるべきだろう。米軍使用のオスプレイは、クラッチが不具合を起こす原因不明の問題を抱えているにもかかわらず、日本の領空を好き勝手に飛んでいる。
 マスメディアは日本に何らかの危害が及ぶ危険が迫っていたかのようにニュースをと伝え(NHKニュース7、22/10//4;ニュースウオッチ9、22/10/4;朝日22/10/5毎日22/10/5)、Jアラート発信の妥当性を問うのではなく、誤報や発信の遅れを問題にした。
 毎日新聞22/10/19)は朝鮮のミサイルが日本の「上空」を通過してから2週間程たった後、Jアラートの「課題」を論じる社説で誤報や発信遅れがあったことを問題として指摘した後、最後の方になってようやく、

「今回のミサイルの最高高度は約1000キロで、国際宇宙ステーションISS)の高度の倍以上だ。上空通過で、どのような危険が想定されるのかという基礎情報がもっと周知される必要がある」

と述べているが、そのすぐ後に続く一文は、

「避難を呼びかけられた人々からは『どこに逃げればいいのか』など不安や戸惑いの声が聞かれた。避難施設の確保も急がれる」

 今回のJアラート発信の妥当性については全く問題にしていない。国際宇宙ステーションの「倍以上」の「上空通過」で、毎日新聞はどのような「危険」を「想定」しているのだろうか。

 毎日新聞が高度1000キロは宇宙空間であることを指摘していることから明らかなように、日本政府もマスメディアも無知ではない。朝鮮のミサイル発射で日本に危害が及ばないことを知っていながら、朝鮮の「脅威」を演出しようと試みたと見るのが自然だろう。

 NHKの世論調査によると政府が計画する軍事費の法外な増額を過半数が支持している(賛成55%、反対29)。中国脅威論と合わせて、朝鮮の脅威演出による日本政府とマスメディアの軍拡PRの効果は着実に出ている