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── Media Watchdog Group

韓国の政権が変わっても、大日本帝国時代の被害者救済の責任は日本にあることに変わりはない

 韓国の政権交代が日韓関係改善のきっかけにならないか。日本政府やマスメディアは、今年5月に就任した韓国のユン・ソンニョル大統領の言動に注目している。大日本帝国時代の性奴隷や強制労働の被害者の問題で、ユン政権は被害者の立場にも理解を示していたムン・ジェイン前政権の方針とは一線を画し、日本との関係改善を重視する姿勢を示しているからだ。

 しかし、日韓関係で問題になっている「慰安婦」や「徴用工」と呼ばれる大日本帝国時代の性奴隷や強制労働の犠牲者の救済を巡る問題は、被害者の救済なしには解決しない。
 マスメディアは、

「日本政府は、1965年の日韓請求権協定で解決済みで、いまさら蒸し返すのは国際法違反だと主張しています。このため、日本側が譲歩して落としどころを探るという話ではなくて、ボールは韓国側にあるという立場です」NHK政治部外務省クラブキャップ・徳丸政嗣、ニュースウオッチ9、22/7/18)、

「日本政府は『元徴用工への損害賠償を含む請求権問題は、日韓請求権協定で既に解決した』として、韓国側が対応すべきだとの立場。日本企業側も賠償に応じない方針で足並みをそろえている」(坂口裕彦、毎日22/7/19

「日本政府は、1965年の日韓請求権協定で、植民地統治時代に生じた被害の補償問題は解決済みとの立場だ。協定には、日本が経済協力金を払う代わりに、韓国側は一切の請求を放棄すると明記されている」鈴木拓也、朝日22/8/22

などと説明し、日韓請求権協定で問題は解決済みだと主張する日本政府の「立場」が正しく、問題を解決する責任は韓国政府にあるという前提でニュースを伝えているが、その前提は完全に間違っている。
 なぜなら、日韓請求権協定は国家間の取り決めであって、国家間の条約で個人の請求権を消滅させることはできないというのが国際的な共通認識だからだ。これは日本政府も認めていることである(例えば、1991年8月27日の参議院予算委員会での外務省条約局長・柳井俊二の答弁)。また、日韓請求権協定は被害者の頭越しに強引に締結された協定であり、協定で韓国側に供与された無償3億ドル分の日本の生産物と役務は賠償ではなくて経済協力だった。このような協定で、大日本帝国時代の被害者の救済問題が、解決されようはずがない。現に、加害者である日本政府や日本企業の謝罪と賠償を受けられずに苦しみ続けている被害者が今も存在するのだ。被害者の人権が回復されるまで、この問題は解決されない。

 日本政府やマスメディアは、性奴隷や強制労働の被害者の救済問題を「歴史問題」として捉えているようだが、この問題は歴史問題ではなくて人権問題だ。
 また、実際にこの問題によって日韓関係が冷え込んでいることもあって、日韓の対立が強調されがちだが、被害者の救済問題は国家間の争いではなく、国家と市民社会の闘いだと認識すべきだろう。国家間の条約や合意を盾に救済を求める被害者に背を向け、自らが犯した罪を免責する国家の横暴を許すのか、それとも、国家に対して罪を償わさせ、被害者を救済して市民社会全体の人権の規範の向上につなげるのか。

 日本の市民社会は、日本政府に対して日韓国交正常化後もずっと救済されずに苦しみ続けてきた被害者が求める謝罪と賠償に応じるよう圧力をかけ、国家による人権侵害を終わらせる必要がある。