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── Media Watchdog Group

「国際テロリズム要覧」から名前を削除しても、アゾフ大隊がネオナチだという事実は変わらない

 「ネオナチ組織がアゾフ大隊を結成した」。日本の公安調査庁は、ウクライナ軍のアゾフ大隊について、「国際テロリズム要覧2021」にこう記載していたが、4月8日に削除した。「『国際テロリズム要覧』は、内外の各種報道、研究機関等が公表する報告書等から収集した公開情報を取りまとめたもの」で、公安調査庁としてアゾフ大隊をネオナチ組織と認めたわけではないにもかかわらず、「公安調査庁が『アゾフ連隊』をネオナチ組織と認めている旨の事実と異なる情報が拡散され」ることを防ぐためだと説明している。

 公安調査庁がアゾフ大隊に関する記述を削除して以降、それまでアゾフ大隊という名称に言及することは極めて稀だったマスメディアが、アゾフ大隊という固有名詞を、ネオナチではないウクライナの防衛部隊として堂々と使うようになった。朝日新聞のウェブサイトで「アゾフ連隊」で検索すると18件ヒットするが、ほとんどが4月8日以降の記事で、それ以前の記事は2件しかない(4月30日現在)。毎日新聞も同様に「アゾフ大隊」で検索すると51件の記事がヒットするが、4月8日以前の記事は3件だけだ。NHKニュース7ニュースウオッチ9は、ウクライナ情勢が注目され始めた昨年12月以降、公安調査庁がアゾフ大隊の記述を削除するまでの期間に「アゾフ大隊」あるいは「アゾフ連隊」という固有名詞を使ったことは一度もなかったが、現在では度々アゾフ大隊という固有名詞を用いてニュースを伝えている。
 マスメディアの変化は、単に世界の注目がアゾフ大隊の拠点となっているマリウポリの製鉄所の攻防に集まったことだけによるものではないだろう。なぜなら、マリウポリは当初からロシア軍の攻撃目標となっており、マスメディアも東部の要衝として侵略当初からマリウポリに注目していた。またロシア政府はウクライナの「非ナチ化」を侵略理由の一つに挙げており、ネオナチとして「国際テロリズム要覧」に名前が載る程知られていたアゾフ大隊は、ウクライナ情勢を伝える上で、重要な要素の一つだった。それにもかかわらず、ロシアの侵略から1カ月以上経ってようやくアゾフ大隊の固有名詞を使うようになったのは、「国際テロリズム要覧」からアゾフ大隊の記載が削除されたからだと考えるのが妥当だろう。日本の公安調査庁がアゾフ大隊はネオナチ組織と認めている状況でアゾフ大隊の固有名詞を用いれば、ウクライナの非ナチ化を掲げて同国に侵略するロシア政府に正当性を与えかねないが、公安調査庁がアゾフ大隊をネオナチ組織とは認識していないと宣言したのだから、もう気兼ねすることはない。そういうことだろう。今になってアゾフ大隊はネオナチではないと断言できるのなら、マスメディアは最初からアゾフ大隊の固有名詞を出して説明し、ウクライナはネオナチだというロシア政府の主張を覆せばよかったのだ。

 しかし日本の公安調査庁が「国際テロリズム要覧」からアゾフ大隊に関する記述を削除したからと言って、アゾフ大隊がネオナチ組織だという事実は変わらない。
 アゾフ大隊は2014年に白人至上主義者のアンドリー・ビレツキーによって創設された組織で、ナチスのシンボルマークである鉤十字を使用したり、ナチス式の敬礼を行うなど、彼らがネオナチ組織であることは公然とした事実だ。アゾフ大隊はヤヌコビッチ政権を打倒した2014年のクーデタ後にウクライナ国家親衛隊に編入されたが、その後クーデタに反対する東部のドンバス地方の独立派との紛争で、彼らが一般市民への暴力や強姦などの残虐な犯罪行為を行ったことは、欧州安全保障協力機構(OSCE)や国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)などでも報告されている。また合衆国議会では、合衆国の武器がウクライナの極右勢力に渡ることを危惧する議員らが中心となって、アゾフ大隊への軍事支援を禁止する法律を2018年に成立させている(The Hill18/3/27)。
 ウクライナアメリカ人ジャーナリストのレフ・ゴリンキンは(Democracy Now22/4/12)、戦争犯罪や残虐行為を繰り返すアゾフ大隊の発信する情報をそのまま伝えて彼らに正当性を与えている現在の欧米のマスメディアの状況を嘆き、特に日本の公安調査庁が「国際テロリズム要覧」からアゾフ大隊の記述を削除したことを非難している。

 公安調査庁が収集した内外の研究機関などの報告書はアゾフ大隊はネオナチ組織だと評価しているにもかかわらず、公安調査庁としてアゾフ大隊はネオナチ組織ではないと判断する理由は何か。また仮に収集した報告書の内容が信用できなかったのだとしたら、なぜ「国際テロリズム要覧」にわざわざ「ネオナチ組織がアゾフ大隊を結成した」などと記載していたのか。
 本来なら、こうした疑問を追求することが、マスメディアに期待されている役割だ。しかしマスメディアは事実を追求することよりも、ロシア憎しの世論を維持することに一生懸命だ。マスメディアの偏向はいつものことだが、ウクライナ情勢に関するマスメディアのニュースは特に信頼することができない。