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── Media Watchdog Group

必要なのは、兵器ではなくて交渉、そして停戦だ

 イスタンブールで行われた停戦交渉でウクライナ政府がロシア側の求める「中立化」を受け入れる考えを示し、ロシア政府が「信頼醸成」と停戦合意に向けた「環境づくり」のためにキエフ周辺での軍事活動を縮小すると発表するなど、停戦に向けた協議が動き出したかに見えた。ところが、ロシア政府が軍事活動縮小の一環として軍を撤退させたキエフ近郊の町、ブチャで、一般市民とみられる多数の遺体が確認されたことで、その雰囲気は一転。欧米と日本はロシアに対する制裁をさらに強化させ、欧米諸国はウクライナへのさらなる軍事支援を発表するなど、ようやく見えかけていた停戦の兆しなど、すっかり消えてしまった。

 欧米や日本の政府・マスメディアは、ロシア軍がブチャで市民を虐殺したと決めつけて、ロシアに対する非難を一層強めているが、それを裏付ける客観的な証拠はなく、本当にロシア軍による犯行なのかどうかは疑わしい。
 ブチャの路上などに市民の遺体が放置されているとの情報が伝えられ出したのは4月2日からで、ウクライナの検察当局がブチャで410人の市民の遺体を収容したと発表したのが4月3日だが、ロシア軍がブチャから完全撤退した翌日の3月31日、ブチャの解放を宣言したアナトリー・フェドルク市長は、遺体について全く言及していなかった。路上など目につく場所にロシア軍の撤退前から遺体が多数放置されていたとするなら、市長はなぜそれに気づいてロシアの犯罪を世界に訴えなかったのか。
 欧米や日本の政府・マスメディアなどは、3月中旬に撮影されたという合衆国の宇宙関連会社マクサー・テクノロジーズや、3月21日に撮影されたという英国防省衛星写真を根拠に、遺体はロシア軍の撤退前から放置されていたと主張しているが、もしそうだとすると、遺体は死後2~3週間経過していることになる。しかし3月としては暖かかったというブチャの天候にもかかわらず、遺体の画像からはそれ程腐敗した様子が確認できないことから、ロシア政府は遺体は死後1~2日のものだと分析している。また、この場合に最も重要な情報である衛星写真の撮影日は、欧米政府やマスメディアがロシア軍撤退前の3月だと主張しているだけで、公開された衛星画像には撮影された日付が記載されていない。ロシア政府は分析の結果、マクサー・テクノロジーズの衛星写真が撮影されたのは英国時間の4月1日午前11時、つまりロシア軍の撤退後だと推測している。欧米や日本のマスメディアは、ブチャの虐殺は「フェイクニュース」だというロシア政府の主張は全て反証されたと伝えているが、以上のようなロシア側の分析は覆されていない。
 また、仮にロシア軍が虐殺したとするなら、ウクライナ政府から同国の「中立化」などロシア側の要求に沿う形での停戦案が出された直後に、交渉を台無しにし、欧米からの追加制裁や国際的な批判を招くような犯罪の跡をわざわざ目立つ形で残していくだろうか。その点も疑問だ。そう考えていたら、今度はマリウポリでロシア軍が殺害した市民の「証拠隠滅」を図っているとウクライナ政府は言い出した(NHKニュース7、22/4/7)。それならなぜ、ロシア軍はブチャで「証拠隠滅」をしなかったのだろう。
 ロシアがウクライナを侵略しているのだから、ロシア軍がやったに違いないと考える人も多いかもしれないが、そうとも言い切れない。ウクライナ当局は2014年のクーデタ後にオデッサ労働組合のビルで数十人が極右のウクライナ民族主義者に殺害されるのを傍観するなど、ウクライナの極右やネオナチがロシア系住民を虐殺するのを陰に陽に支援してきたし、ウクライナ軍は東部のドンバス地方で8年間、ロシア系市民の暮らす地域を空爆するなど、ロシア系住民への攻撃を続けている。ブチャで発見された遺体の中に親ロシア派であることを示す白い腕章を着用している者がいたことを理由に、ウクライナ側が親ロシア派住民を殺害したと主張するロシア側にも、それなりの真実性はあるのだ。侵略者であるロシアを非難したい気持ちはわかるが、先ずは第三者による客観的な調査が必要だろう。

 しかし、欧米諸国や日本は、第三者による調査を待たずして、ロシアの犯罪だと断定して対ロシア制裁を強化し、ロシア外交官の国外追放処分まで行っている。欧米や日本には、もうロシアと交渉によって問題を解決するつもりがないのだろうか。
 また欧米諸国は、7日に開かれたNATO外相会合前に「私のテーマはとても単純だ……兵器、兵器、そして兵器だ」と語っていたウクライナ外相の求めに応じて、ウクライナに対する軍事支援を強化することも約束している。
 ジョー・バイデン大統領や米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長イェンス・ストルテンベルグNATO事務象徴など、欧米の政治家や軍人の間では戦争は長期化するとの見方が出ているが、ロシアとの交渉をやめてウクライナに武器を送り続ければ戦争が長期化するのは当然のことで、それは、さらに多くの市民が殺されることを意味する。
 欧米や日本のやり方は間違っている。平和団体コード・ピンク共同創設者のメデア・ベンジャミンが指摘するように、今求められているのは、兵器ではなくて、交渉と停戦なのだ。

ウクライナ外相のテーマは兵器、兵器、兵器ではなくて、交渉、交渉、交渉、そして停戦、停戦、停戦であるべきだ」

 戦争の長期化は、そこから利益を得る欧米の軍需産業にとっては都合がいいかもいいかもしれないが(長周、22/4/9)、地球上のそれ以外の大多数の人々にとっては決して許されることではない。