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── Media Watchdog Group

合衆国政府の偽情報を無批判に拡散するマスメディアにはうんざりだ

 ロシアによるウクライナ侵略が「非常に近い」とか、プーチン大統領が「ウクライナ侵略を決断した」と「確信している」とか、あるいはロシアがウクライナ侵略の口実づくりのために「偽旗作戦(偽装作戦)」を準備しているとか。バイデン政権が証拠も無しに発表する不確かな情報をマスメディアが無批判に拡散し、ロシアによるウクライナ侵略が間近に迫っているかのような印象を与えている。最近になってマスメディアは、「情報戦」という言葉を用いて合衆国とロシアの攻防を説明するようになった。「情報戦」というと、敵対し合う双方が偽情報も交えながら、自らの都合の良い方向に世論を誘導しようとせめぎ合っているような印象を受けるが、マスメディアが米ロの情報戦で描く構図はそうではない。真偽不明の情報を流すのは、もっぱらロシア政府であり、対する合衆国は “機密情報” を公開してロシアの軍事行動を抑止しようとしているという設定だ。

 例えば、時事通信22/2/18)は「『積極開示』対『偽旗作戦』 米ロ、激しさ増す情報戦」というわかりやすい見出を付けて、マスメディアの描く米ロの情報戦について、次のように説明する。

「ロシアは自国軍の動向を含め真偽不明な情報を発信して世界をかく乱。一方、ロシアや親ロ派への攻撃を自演する『偽旗作戦』を警戒する米国は、想定されるロシアの行動や思惑を次々と開示して抑止を図る」

 NHKワシントン支局長の高木優ニュースウオッチ9、22/2/18)も、

「バイデン政権は今回、自らのインテリジェンスに基づく機密情報っていうのを次々と開示することで、ロシアが今やろうとしてることですとか、やる可能性がありそうなことを世界につまびらかにしてしまって、ロシアが取り得る選択肢をあらかじめ狭めてしまおうと、そういう戦いを展開してるんですね」

と説明している。
 ロシアが「偽情報」や「偽旗作戦」を口実にウクライナを侵略するのを阻止するために、バイデン政権は “機密情報” を開示しているというわけだ。
 しかし、ロシアによるウクライナ侵略が近いとか、、あるいはロシアが「偽旗作戦」を準備しているといった “機密情報” について、バイデン政権はほとんど証拠を提示していない。何故、マスメディアはバイデン政権の言うことを事実と決めつけて伝えることができるのか。
 しかも「偽情報」の常習犯といえば合衆国政府ではないか。2003年にブッシュ政権大量破壊兵器を隠しているという情報を捏造してイラクを侵略したことはあまりにも有名だ。他にも、共産主義者の手先だと喧伝して脅威を捏造して実施したグアテマラ侵略と民主政権の転覆や、 “ベトナム戦争” で北爆開始の口実のために捏造された「トンキン湾事件」、捏造された民族浄化を口実に実施されたコソボ空爆民族浄化NATO空爆後に現実のものとなった)等々。
 合衆国国務省のネッド・プライス報道官は「ロシアは侵略の前にでっち上げの口実をつけるのを常としている」と言うが、侵略の口実を「常としている」のは合衆国であり、バイデン政権の “機密情報” こそが偽情報ではないのか。

 真偽の定かでない情報の拡散によるバイデン政権の世論誘導は、世論形成に大きな影響を与えるマスメディアの協力があってこそ、可能になる。
 バイデン政権の “機密情報” に信憑性を与える目的もあるだろう。バイデン政権の今回の「情報戦」は2014年のロシアによるクリミア併合が教訓になっているそうだが、NHKニュース7(22/2/18)は、クリミア併合について次のように説明する。

「2014年、ロシアが一方的にウクライナ南部のクリミアを併合した際には、ロシアは国営メディアなどを通じて、現地のロシア系住民が脅威にさらされているという情報を拡散させました。その上で、ロシア系住民の保護を理由にクリミアに密かに軍を送り込み、3月、一方的に併合しました」

 ニュース7に限ったことではないが、マスメディアによく見られるこのような説明は、クリミア併合前に起こったことを無視しおり、ミスリードだ。
 クリミア併合の前年、ウクライナではヤヌコビッチ政権がEUとの連合(AA)協定締結を見送り、ロシアとの関係を強化する方針を決めると、反政府デモが発生。デモは大規模な暴動に発展し、2014年2月、ヤヌコビッチ政権が崩壊して親欧米派のネオナチ政権(Nation21/5/6)が誕生した。合衆国はこのクーデタを支援しただけでなく、国務次官補のビクトリア・ヌーランドが次期ウクライナ政権の首相の指名まで行っていたことが暴露されている(BBC14/2/7)。ロシアのクリミア併合は、クーデタで権力を手にしたネオナチ政権が公用語としてのロシア語を廃止した後に、住民投票を経て行われた。ロシアが一方的に軍事力を用いてクリミアを併合したというのは公平ではない。また合衆国が支援するネオナチ政権に対する反発が強かったクリミアでは、「ロシア系住民が脅威にさらされていた」というのも、嘘ではないのだ。

 これまで偽情報で世論を誘導して数々の侵略戦争を行ってきた合衆国政府の経歴にもかかわらず、バイデン政権の発表を無批判に拡散するマスメディアのニュースには、本当にもううんざりだ。