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── Media Watchdog Group

ルールに基づく世界の秩序を脅かしているのは合衆国だ

 合衆国のバイデン新政権が、中国に対する強硬姿勢を鮮明にしている。今月3日に公表した「国家安全保障戦略暫定指針」では、「中国は、安定し開かれた国際システムに継続的に挑戦するために経済・外交・軍事・技術力を結合する潜在的能力のある唯一の競争相手」だと指摘し、同盟国との関係強化によってこれに対抗する方針を表明。その後、「クアッド」と呼ばれる日本・合衆国・インド・オーストラリア4カ国による首脳会合、日米外務防衛閣僚会合、米韓外務防衛閣僚会合、北大西洋条約機構NATO)外相会議などを立て続けに行い、中国包囲網の構築に奔走した。さらにジョー・バイデン大統領は25日に行われた記者会見で、米中の対立を「民主主義と専制主義の闘い」と形容し、「民主主義」を守るために同盟国の連携強化が重要だと主張している。

 マスメディアは、現在の米中関係を「民主主義」と「専制主義」あるいは「権威主義」の対立と描写し、「民主主義」や「法の支配」といった「価値観」を対立軸に、同盟国と連携して中国に対峙しようとする合衆国政府の姿勢を全く疑おうとしない。
 しかし合衆国が実際に国際社会でどのような振る舞いをしてきたかを考えると、「民主主義」や「法の支配」は中国との対立軸にならないことは明らかだ。
 第二次世界大戦後に名実ともに世界一の覇権国家となった合衆国は、その覇権を守るために世界中で侵略戦争や軍事介入を繰り返してきた。朝鮮半島では、日本の植民地支配から解放された市民による独立政府樹立に向けた動きを暴力的に潰し、現在まで続く南北の分断と朝鮮戦争の下地を作った。ベトナムでは民族自決を掲げるホー・チ・ミンによるベトナム統一を阻止するために南ベトナムに傀儡政権を樹立、さらに軍事進攻して数百万人のベトナム人を殺害した。他にも、合衆国政府は国際法を無視して、ラオスカンボジアパナマグレナダセルビアイラクアフガニスタン、シリア、イエメン、リビアソマリアパキスタンなど、数多くの国を侵略し、イランやグアテマラ、ブラジル、チリ、アルゼンチン、ハイチ、ホンジュラスボリビアなど、世界各地でクーデタを企てて民主的に選ばれた政府を転覆してきたし、ピノチェ(チリ)、ビデラ(アルゼンチン)、ソモサ(ニカラグア)、ノリエガ(パナマ)、朴正煕(韓国)、マルコス(フィリピン)、スハルトインドネシア)、モブツ(コンゴ民主共和国)、フセインイラク)、サウジ王室など、数多くの独裁政権を支援してきた。
 合衆国のアントニー・ブリンケン国務長官は米中外相会談で、中国の行動が「世界の安定を維持するルールに基づいた秩序を脅かしている」と述べて中国を批判したが、ルールに基づく世界秩序を脅かしているのは合衆国ではないか。中国外務省報道官の華春瑩(中国国際放送局21/3/26)がバイデン政権に対して次のように反論したのも、当然だろう。

アメリカ側は中国側に国際規則の遵守を求めたが、世界には国連を中心とする国際体系しかなく、国連憲章の主旨を基礎とする国際関係の基本規則しかない。国際規則の遵守において、中国は模範であり、優等生であるのに対し、アメリカはおそらく劣等生だろう。これは国際社会から認められていることだ。……根も葉もない『証拠』をねつ造し、他の主権国家を襲い、数十万もの人々を死傷させ、無数の家族を離散させた国が、自らを民主や人権のリーダーであると豪語することはできないだろう」

 そういえば、先月バイデン政権が国際法を無視してシリアを空爆した際、中国やロシアが合衆国の国際法違反を非難したのに対し、「法の支配」を重視するはずの同盟国、フランスや英国は合衆国の空爆に支持を表明した。

 「民主主義」とか「法の支配」とか、各国政府の主張と実際の行動に矛盾がないかどうか。マスメディアはちゃんと確認した上でニュースを伝えるべきだ。