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── Media Watchdog Group

合衆国が先に制裁を解除すべきだというイランの要求は正当なものだ

 イラン核合意の正常化に向けた関係国の交渉が約5か月ぶりに再開した。イラン核合意は欧米の対イラン制裁解除と引き換えに、イランが核開発を大幅に制限する内容だが、合衆国のトランプ前政権が核合意から一方的に離脱して経済政策を復活させ、イランは対抗措置として核合意で定められた上限を超えるウラン濃縮を行うなど合意の履行を縮小させてきた。マスメディアは、イランに対して核開発の制限を守るよう要求する合衆国と、制裁の全面解除を求めるイランがお互いに譲らず、交渉が難航していると伝えている。それは間違いではないのだが、忘れてならないのは、核合意に違反しているのは、イランではなくて合衆国だということだ。

 イラン核合意は、締約国に「重大な合意不履行」があった場合、イランは合意の履行を停止することができると定めている(第36節)。イランはこの条項に基づき、トランプ政権の合意離脱後1年間待った上で、核合意の履行縮小を発表し、それ以降、段階的に合意の履行縮小を行ってきた。従って核合意の制限を上回るウラン濃縮などのイランの合意履行縮小は、核合意違反ではない。
 イランの新政権発足後初めてとなる今回の協議で、イラン側は合衆国政府が核合意離脱後に課した全ての制裁の解除と、合衆国が一方的な合意離脱や制裁再発動を繰り返さないことを文書で保証するよう求めている。合衆国政府はイランの要求について、「イラン側が、前政権が提示した全ての妥協案を撤回し、核合意の範囲を超える要求をした」(毎日21/12/6)、「イランは今、核合意再建に必要なことを真剣に行っているようには見えない」(アントニー・ブリンケン国務長官ロイター21/12/4)などと主張、マスメディアも「イラン新政権、強硬条件」(朝日21/12/6)、「『イラン、妥協案撤回』 米、核間接協議で批判」(毎日)といった見出しで、合衆国政府の立場からニュースを伝えているものが多いが、合衆国側が先に全ての制裁を解除する必要があるというイラン側の主張は前政権から変わっていない(Pars Today21/6/13)。またイラン側の説明によると、バイデン政権はイランのロハニ前政権との交渉で、イラン側が求める「保証と検証の原則を受諾」している(Pars Today21/12/5)。イランが核合意に基づいて行動しているのに対して、合衆国側が核合意に反する経済制裁を続けているという現状を考えれば、イラン側の要求は当然かつ正当なものだ。合衆国政府の主張やマスメディアの見方は、核合意を順守している政府と違反している政府の立場が逆転してしまっている。

 ところで、マスメディアの中には、「経済制裁の効果、中国が左右」(朝日21/11/28)、「核協議再開 強気イラン、裏に中国 禁輸の原油、買い支え」(毎日21/12/1)などと、イランに対する制裁が十分に効いていないことが問題の解決を妨げているかのように論じているものがあるが、全くの論外だ。イランは合衆国の核合意離脱前はもちろん、離脱後も、他の核合意当事国が核合意の責務を履行することを条件に核合意に残留し、1年以上にわたって合意の完全な履行を続けた。現在核合意が機能していないのは、ドイツ・フランス・英国が合衆国による二次制裁を恐れて核合意で定められた履行義務を果たすことができなかったからだ。
 つまり核合意を正常化するために必要なのは、制裁の解除なのであって、制裁が効いているかどうかということは全く問題にならない。

 合衆国政府は自らに非があるにもかかわらず、イラン核合意が機能していない責任がイラン側にあるかのように装い、核合意に定められた責務を果たすどころか、イランに対する新たな制裁を加えている(Pars Today21/12/8)。「核合意再建に必要なことを真剣に行っているようには見えない」のは、明らかにアメリカ合衆国の方だ。合衆国政府が真剣にイラン核合意を正常化させようと考えているなら、まずは合衆国政府がイランに対する制裁を解除しなければならない。