Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

強制労働が行われていたという指摘は韓国の「誤った主張」という前提でニュースを伝えるNHK

 岸田政権が「佐渡島の金山」について、江戸時代までに限ってユネスコ世界文化遺産候補として推薦することを決めた。江戸時代までに限定したのは、アジア太平洋戦争中に佐渡金山でも朝鮮半島出身者に対する強制労働が行われていたため、国際社会でそれを批判されるのを避けたいという姑息な考えからだろう。これに対して韓国政府は、強制労働についての「十分な説明なしにユネスコ世界遺産に登録されることのないよう……断固とした対応を取っていく」と述べて(聯合21/12/28)、反対する立場を表明しているが、NHKは、強制労働の事実が韓国政府による「誤った主張」であるかのように伝えて、日本政府による歴史改竄に協力している。

 NHKニュース7(22/1/28)は、岸田文雄総理大臣が佐渡金山のユネスコへの推薦を決定したと表明し、

佐渡島の金山については……稀有な産業遺産として高い評価を有しています。他方、その高い価値にもかかわらず……様々な議論・意見があるということは承知をしております。佐渡島の金山の文化遺産としてのすばらしさ、素晴らしい価値が評価していただけるよう冷静かつ丁寧な議論が求められます。そうした中で、いつ申請することが登録に向けて最も効果的なのかにつき検討を重ねてまいりましたが、本年申請を行い早期に議論を開始することが、登録実現への近道であるという結論に至り(ました)」

などと語るのを伝えた後、NHK政治部の長谷川実が、

佐渡島の金山を巡っては、韓国が朝鮮半島出身の労働者が強制的に働かされた場所だと主張しています。政府は、誤った主張で受け入れられないとして、韓国側や国際社会に丁寧に説明し、理解を求めていく方針です」

などと解説。ニュースウオッチ9(22/1/28)も田中正良キャスターが、

「韓国外務省の報道官は早速、強い遺憾の意を示しています。世界文化遺産の登録に向けては、日本側としては誤った主張で受け入れられないと説明し、広く国際社会に理解を求めていくことになります」

などと説明し、強制労働があったという指摘は韓国の「誤った主張」だという前提でニュースを伝えている。
 しかし、佐渡金山で朝鮮人に対する強制労働がが行われていたのは事実だ。市民団体の強制動員真相究明ネットワークは緊急声明で、『新潟県史 通史編8近代3』(1988 年)に掲載された「強制連行された朝鮮人」の項に「昭和 14 年(1939 年)に始まった労務動員計画は、名称こそ『募集』、『官斡旋』、『徴用』と変化するものの、朝鮮人を強制的に連行した事実においては同質であった」と記されていることなどを紹介し、次のように指摘している。

佐渡鉱山への朝鮮人強制連行は自治体も認知してきた歴史事実です。……佐渡鉱山への朝鮮人動員数は1500人を超えるものとみられます。……現場から逃亡すれば、労務調整令違反で検挙され、犯罪とされました。8・15 解放後の朝鮮人1140 人分の未払金 231,059 円の供託史料も残っています。三菱鉱業佐渡鉱業所の史料や特高警察の史料などからも、強制連行・強制労働は歴史の事実です」

 日本政府にとってどんなに都合が悪かろうと、日本が朝鮮半島や台湾を植民地化し、そこで暮らしていた人々に対して残虐行為を重ねてきたという事実は消し去ることは出来ない。
 “慰安婦” 問題や “徴用工” 問題でもそうだが、韓国が日本を非難するのは日本政府が過去の過ちと真摯に向き合わず、大日本帝国時代の蛮行を否定して歴史を改竄しようとしているからだ。韓国との良好な関係を築くためには、日本がその態度を改めねばならないのだが、世論形成に大きな影響を与えるマスメディアも、政府・与党の極右勢力と足並みを揃えて歴史改竄に協力しているため(Bark at Illusions18/11/620/7/9など参照)、日本社会の多くの人がそのことに気づかず、逆に韓国側に非があると思い込んでいる状況だ。

 岸田文雄世界遺産登録の実現のために「最も効果的」な申請のタイミングを検討をしたと述べた。そして「早期に議論を開始する」ことが「実現への近道」だという結論に達した述べた。朝日新聞22/1/29)によると、そのような結論に至ったのは、「軍艦島世界文化遺産に登録された時は保守系朴槿恵政権だったのに韓国は騒いだ。今回先送りしたって結果は同じだ」という安倍晋三の助言があったからだという。
 「先送りしたって結果は同じだ」というのはその通りだろう。しかしそれは、日本に対する韓国の政権の態度が保守系でも革新系でも変わらないからではない。日本政府が過去の過ちを認めず、歴史的事実を歪曲し続けている限り、どんなタイミングで申請しようと結果は同じだろう。
 「軍艦島」などからなる長崎県の「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録の際には、日本政府が「歴史全体を理解できるようにする説明の取り組み」や「犠牲者を記憶にとどめるための適切な対応」を行うと約束したことを受けて、朝鮮半島出身者に対する強制労働が行われていたことを理由に反対していた韓国政府が登録を了承した経緯があるが、日本政府はその約束を実行していない。「犠牲者を記憶にとどめるため」に設置したはずの産業遺産情報センターは、朝鮮半島出身者に対する強制労働の事実を否定する証言を集めて展示するなど、日本政府による加害の事実を伝えるどころか、逆に歴史を歪曲し、改竄しようとしている。このような日本政府の対応については、ユネスコ世界遺産委員会が昨年7月に「強い遺憾」を示す決議を全会一致で採択している。
 日本政府が長崎の世界遺産登録の際に国際社会に対して行った約束を履行していれば、韓国の反応も違ったものになっていたのではないだろうか。日本政府が“慰安婦” 問題や “徴用工” 問題で、被害者に対する謝罪と賠償をきちんと行っていれば、韓国は今回の世界遺産登録に反対しただろうか。

 岸田文雄は「様々な議論に対応」するための「タスクフォース(特別チーム)」を設置すると言うが、そんなことより、国際社会との約束の履行や、大日本帝国時代の植民地政策の償いが先だ。