中国と外交関係を結ぶ他の全ての国家もそうだと思うが、日本と合衆国は、台湾は「中国の一部」だという中国政府の立場(「一つの中国」)を認め、台湾との公式な外交を断つことによって中国との国交を正常化させた。この重要な基本事実を、台湾情勢についてニュースを伝えたり論じたりする際に日本のマスメディアは無視しがちだ。台湾の李逸洋駐日代表に台湾が「日本やアメリカ[合衆国]のトランプ次期政権とどう関係を築こうとしているのか」を聴いたニュースウオッチ9(NHK、24/11/12)もその一つだ。
ニュースウオッチ9は中国が台湾に対する軍事的圧力を強めていることを強調し、「覇権主義的」な中国への対応として9月に初めて自衛隊の艦船に台湾海峡を航行させた日本政府との「連携」やトランプ新政権の「リーダーシップ」に李逸洋が期待していることを紹介した後、広内仁キャスターが、李に次のように尋ねている。
「トランプ政権に、いざという時に、何か台湾海峡であった時に実際に支援に来てくれるのかというところを疑問視する声もあると思うんですけども、その辺りどうお考えでしょうか」
それに対して、李逸洋は、
「それは有り得ません。台湾とアメリカの関係はアメリカの台湾関係法で定められていて、アメリカは十分な防衛のための武器を供与しなければなりません。台湾海峡の平和と安定、地域の安全を維持するために、アメリカと日本からより一層の支援が得られることを期待しています」
と答えているが、合衆国政府は中国政府の「一つの中国」という立場を認めている(「米中共同コミュニケ(上海コミュニケ)」、「外交関係樹立に関する共同コミュニケ」、「台湾への武器売却に関する共同コミュニケ(8・17コミュニケ)」)のだから、広内仁の質問は不適切だ。李逸洋は合衆国だけでなく日本からの支援も期待していると述べているが、日本政府も中国との国交正常化時に「一つの中国」を認めている(「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」)。
仮に合衆国や日本が台湾有事の際に台湾を支援するような事があれば、日米はウクライナ政府とウクライナ東部の独立派との内戦でウクライナの独立派を支援し、ウクライナを侵略したロシアと同じ役を演じることになる。日本と合衆国は “日米同盟” の強化や自衛隊の敵基地攻撃能力の保有、南西諸島の軍事要塞化などで台湾有事への備えを急いでいるが、台湾有事で日本や合衆国が軍事介入するなら、グローバルサウスの多くはそれを侵略と見做すだろう。グローバルサウスは、ロシアの侵略は国際法違反だが合衆国とその従属国家の侵略は「民主主義」や「正義」のための戦争だという風には解釈しない。
ところで、「台湾海峡の現状維持」のための「鍵」は何かと尋ねられた李逸洋は、「世界の民主主義国家の努力」、「中国に対し、この地域の現状変更は不可能だと示すこと」が必要だと答えているが、本当にそうだろうか。
日本のマスメディアは中国の習近平国家主席が台湾に対する武力行使を排除していないことをことさら強調して台湾有事が近いかのような印象を視聴者や読者に与えることに熱心だが、習近平が武力行使の対象にしているのは「外部勢力からの干渉とごく少数の『台湾独立』分裂勢力およびその分裂活動」(2022年の中国共産党大会における習近平の活動報告)だけである。日本や合衆国に限らず、英国やフランス、カナダ、ドイツなどが台湾海峡に次々と軍艦を派遣するなど、台湾問題で中国に対する圧力を強めているが、そうした動きが台湾有事のリスクを高めているのではないか。逆に「一つの中国」を認めて中国と外交関係を結んでいるこれらの国家が中国との約束を遵守し、台湾と中国の関係についての問題への干渉をやめれば、そのリスクは大きく減ることになる。
習近平にとっての武力行使のもう一つの対象である「『台湾独立』分裂勢力およびその分裂活動」については、中国だけを問題にするわけにはいかないだろう。分離独立派に対する暴力は国家権力の常である。例えば、英国政府は北アイルランドの独立派に武力を行使したし、ウクライナ政府も独立を宣言した東部2州に対する戦争を宣言した。分離独立派への武力行使を懸念するなら、国民国家という制度自体を疑うべきだろう。
但し、現状では「『台湾独立』分裂勢力およびその分裂活動」への武力行使については心配する必要はなさそうだ。台湾の頼清徳総統は今年の就任演説で中国との関係は「現状維持」だと述べ、台湾世論も大半は現状維持を望んでいるという。それなら、日本や欧米が台湾問題に介入さえしなければ、「台湾有事」は起こり得ないのではないか。
日本と合衆国が中国の主張する「一つの中国」を認めているという基本事実を無視していては、台湾海峡の平和を維持するための簡単な方法に気づくことができない。