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── Media Watchdog Group

中国も太平洋の島嶼国も、南太平洋を対立の舞台にすることは望んでいない

 合衆国政府が、米中の対立を南太平洋にも持ち込もうとしている。バイデン政権は、今年6月に日本・英国・オーストラリア・ニュージーランドと共に設立した太平洋地域の新たな枠組み「ブルーパシフィックにおけるパートナー」の初の外相会合を9月22日にニューヨークで、太平洋島嶼国との初の首脳会合「米・太平洋島嶼国サミット」を9月28、29日にワシントンでそれぞれ主催した。また29日には米・太平洋島嶼国サミットに合わせて、合衆国の太平洋島嶼国に対する初の国家戦略、「太平洋パートナーシップ戦略」を発表した。そこでは、「中国による圧力や経済的強要」が島嶼国と合衆国の「平和と繁栄、安全を損なう恐れ」があるため、「太平洋諸島全域」で「合衆国の新たな関与」が必要とされている述べるなど、中国への対抗姿勢を鮮明にした。

 これに関連して、ニュースウオッチ9(22/9/30)は、ソロモン諸島を例に挙げて、太平洋で米中の「対立」が激しくなっていると伝えている。
 ニュースの冒頭、

「今、アメリカと中国の対立の最前線になっているのが、南太平洋にあるソロモン諸島です」

と述べた後、ニュースウオッチ9は、ソロモン諸島では「中国の経済援助がスタジアムや住宅街の他、ごみ収集車などにも及んで」おり、今年4月には中国と「安全保障に関する協定を締結」するなど、「中国の影響力が急速に強まってい」ると説明。
 そして、こうした「中国の動き」に「危機感を強め」る合衆国が「ソロモン諸島など太平洋の島嶼国との関係を強化するため」に米・太平洋島嶼国サミットを開催したことや、「太平洋パートナーシップ戦略」を発表したこと、それに米軍と共に自衛隊の艦船がソロモン諸島周辺で訓練を行うなど「ソロモン諸島を巡る米中対立」に日本も関わっていることなどを紹介し、その中で、

「世界は太平洋島嶼国の安全保障にかかっている」(ジョー・バイデン大統領、米・太平洋島嶼国サミットで)、
「中国によって、この地域やアメリカの安全保障が損なわれる恐れがある」(太平洋パートナーシップ戦略)、
「(ソロモン諸島に中国の拠点が置かれれば)台湾有事の際、アメリカを支援するオーストラリア軍が妨害されるなど、大きな問題が生じます。アメリカと日本などの同盟国が積極的に太平洋島嶼国に関り、中国の海洋進出を防がなければならない」(ランド研究所、ジェフェリー・ホーナン上級研究員)
「訪問したり訓練をすることによって、より日本にとって望ましい安全保障環境を構築していくということにつながる」(ソロモン諸島での訓練に参加した坂田淳艦長艦長)

という合衆国や日本側の主張を伝え、最後に田中正良キャスターが、

ソロモン諸島をはじめ、アメリカと中国の勢力争い、激しさを増しているんですね。バイデン大統領は、太平洋の島嶼国の首脳と会議を開き、巻き返しを図ろうとしていますが、既にアメリカはこの地域で出遅れているという指摘も聞かれます」

と述べてニュースを結んでいる。

 ニュースウオッチ9は「米中対立」としてニュースを伝えているけれども、「対立」を望んでいるのは合衆国とその同盟国だけであることに注意が必要だ。
 中国政府が国際社会との関係で目指しているのは、彼らの言葉を用いるなら「ウィンウィン」の関係だ。中国は日本や欧米と対立することを望んでいない。今年7月に行われた「太平洋諸島フォーラムPIF)」の首脳会議で合衆国のカマラ・ハリス副大統領が南太平洋地域の気候変動対策などのために同地域への支援を大幅に増額する方針だと表明した際には、中国政府は、「より多くの支援」が太平洋島嶼国に提供されることを「歓迎」すると述べている(中国国際放送局22/7/13)。
 太平洋の島嶼国も、地域が米中対立の舞台になることを望んでいない。地球温暖化の最も顕著な影響を受けている地域の一つである島嶼国にとって、最大の関心事は気候変動対策や公衆衛生の問題であり、今回の米・太平洋島嶼国サミットで共同宣言を採択できたのは、「米国が各国の意向を尊重し、気候変動など地域の課題解決を最優先にする姿勢を見せたことで、歓迎する雰囲気が広がった」ことが背景としてある(朝日22//10/1)。

 気候変動対策や新型コロナウィルス対策、貧困問題など、人類全体にとっての課題に世界が直面している今、価値観や政治体制が異なるからと言って、対立したり敵対している場合ではないのだ。
 日本や欧米は、その幼稚な発想と振る舞いを直ちに改め、中国への「対抗」を動機として他国への「関与」を強めるのではなく、各国と協調して地球規模の問題の解決に取り組まなければならない。