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── Media Watchdog Group

中国軍機による台湾の防空識別圏飛行は、合衆国の対中政策に対する中国側の当然の反応

 今月に入って中国の戦闘機などが連日台湾の防空識別圏を飛行したことが、 “国際社会” やマスメディアの注目を集めた。4日間で延べ149機もの中国軍機が飛行したが、これは過去に例のない多さだという。今回の中国の軍事行動が台湾海峡の緊張を高める行為であることは間違いない。しかし台湾の防空識別圏が中国大陸の一部を含んでいるという滑稽さからもわかるように、防空識別圏は各国が一方的に宣言できるもので法的根拠はなく、仮に他国の航空機が飛行したとしても領空侵犯にはならない。また中国の行動の背景には、中国に対する軍事的圧力を強める合衆国やその “同盟国” の行動があるということを忘れてはならない。

 合衆国は中国との国交正常化の際に、中国との共同コミュニケの中で台湾が「中国の一部」だという中国の主張を認め、台湾に駐留する米軍を撤退させることを確認し(上海コミュニケ)、中国の内政問題に干渉する意図はないと明言して、台湾への武器売却も「次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導く」と約束した(8・17コミュニケ)にもかかわらず、合衆国の国内法によって台湾への武器売却を続け、トランプ政権下では、総額約180億ドルの武器を台湾に売却。バイデン政権も既に約7億5000万ドルの武器売却を決めている。また米海軍の軍艦が台湾海峡を頻繁に航行したり、南シナ海で “同盟国” との共同軍事演習を繰り返し行うなど、合衆国は中国に対する軍事的な威嚇行為を続けている。中国が台湾の防空識別圏を飛行したのと同じ時期にも、合衆国は台湾近海で日本や他の “同盟国” と共に合同訓練を行っていた。
 合衆国の中国に対するこのような敵対的な行動は、当然のことながら中国に軍事的な対抗措置を促すことになる。今年9月に合衆国と英国、オーストラリアが中国を念頭に新たな軍事協定・オーカスを創設したことも、中国の軍事的な反応を誘発する要因となっているだろう。
 しかし日本のマスメディアとって、台湾を巡る問題は中国が台湾への軍事的圧力を強めて地域の平和と安定を脅かしているということであって、合衆国とその “同盟国” が台湾海峡の緊張を高めているという認識が全くない。
 例えば、今回の中国軍機による台湾の防空識別圏飛行に関して伝えたNHKニュース7(21/10/5、21/10/6、21/10/9、21/10/10)は、合衆国による台湾への武器売却や軍事演習には一切触れず、中国が一方的に台湾への軍事的圧力を強めているかのような印象を与えている。

「中国では10月1日、建国記念日でもありますし、国民に共産党が色んなパフォーマンスを見せなければいけないという時期に当たります。中国共産党の正当性、もっと平たく言うと、人気にとって非常に大事なので、その行動としてやってるんだろう」、「軍事力を見せつけて、台湾の人の心に影響を与える。心を屈服させるということが、大きな目的だろうというふうに見るべきだと思います」東京国際大学・村井友秀特命教授、21/10/5)

「中国による台湾侵攻の可能性を巡っては、侵攻によって得られる利益と損害の大きさを比較して利益が上回った場合、実行に移す可能性が高まるとの見方が出ています。これを念頭に、台湾の邱国正国防部長は、2025年以降、中国が全面的な台湾侵攻の能力を持つと危機感を示し、抑止力の向上を急ぐ必要性を強調しました」(21/10/6)

 ニュースウオッチ9(21/10/6)は、今回の中国の軍事行動とオーカス創設の関連性を指摘する専門家の見方や、米軍艦船による台湾海峡航行を「挑発行為」だと問題視する中国外務省の声は伝えているが、NHKにとって台湾海峡の緊張を高めているのはあくまで中国であり、田中正良キャスターが「不測の事態を招かないよう、抑止ということを考えておくことが必要」だと述べてニュースを結んでいる。
 毎日新聞21/10/6)や日本経済新聞21/10/6)などは、中国の今回の軍事行動は合衆国とその “同盟国” による軍事演習などへの対抗措置だと説明し、今後も合衆国などが軍事演習を行うことで緊張がさらに高まる可能性があることを指摘している。しかしそれでも、日本のマスメディアにとって台湾海峡の平和と安定のために行動を改めるべきなのは、やはり中国なのだ。合衆国とその同盟国の軍事行動は、あくまで地域の平和と安定を脅かす中国に対する「抑止力」だと認識しているのだろう。

台湾海峡 危うい挑発を憂慮する」朝日21/10/7、社説)

「緊張続く台湾海峡 圧力ではなく対話の道を」毎日21/10/24、社説)

 マスメディアは、中国が「6年以内」に「台湾侵攻の可能性」がある(合衆国インド太平洋軍元司令官・フィリップ・デービッドソン)とか、「中国のコストと損害が最低限」となる「2025年以降」に中国による台湾への「全面侵攻の恐れがある」(邱国正台湾国防部長)などといった合衆国や台湾の軍関係者の発言を、根拠も示すことなく繰り返し伝え、中国による「台湾進攻」が間近に迫っているような印象を与えている。
 しかし現時点ではっきり言えることは、合衆国など他国が台湾独立を軍事的に支援しない限り、中国は台湾に対して軍事力を行使することはないだろうということだ。中国が台湾に武力行使すれば、それこそ合衆国に軍事介入の口実を与え、国際社会を敵に回すことになる。中国は、そのよなことは望んでいないだろう。
 ただし、合衆国政府が中国との約束を反故にし、軍事力も誇示して台湾の独立派を支援するような動きを見せるなら、中国としても反応しなければならなくなる。中国軍機による今回の台湾防空識別圏の飛行は、そのことを示したと言っていいだろう。

 マスメディアの一方的な報道を見ていると、地域の平和と安定を維持するためには中国に対する “抑止力” が必要だと考えてしまいがちだ。しかし実際には、合衆国とその従属国が “抑止力” の名の下にやっていることこそが、中国との約束に反し、当然予測されるはずの中国の反発も招いて、台湾海峡や東アジアの緊張を高めている。
 次の戦争を避けたければ、そのことに気づかなければならない。