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── Media Watchdog Group

朝鮮のミサイル発射だけでなく、朝鮮に対する軍事的圧力を強める日米韓の強硬姿勢を問題にしなければ朝鮮半島に平和は訪れない

 大規模な野外演習を4年ぶりに復活させて行われた米韓合同軍事演習(8月22日~9月1日)や、日本海で5年ぶりに米軍の原子力空母を動員して行われた米韓合同軍事訓練(9月26日~29日、10月7日~8日)、日米韓による日本海での対潜水艦戦訓練(9月30日)やミサイル防衛訓練(10月6日)、5年ぶりに行われた米韓空軍による大規模な軍事訓練(10月31日~11月5日)、日米韓の軍事行動に対抗する形で行われた朝鮮人民軍の戦術核運用部隊による軍事訓練(9月25日~10月9日)や軍事作戦(11月2日~5日)、朝鮮人民軍の軍用機による示威的飛行とそれに対する韓国空軍の緊急出動(10月13日、11月4日など)、南北境界線付近での韓国・朝鮮双方による警告射撃(10月24日など)、度重なる朝鮮の弾道ミサイル発射試験及び訓練、等々。朝鮮半島はまさに一触即発の状況と言っても過言ではないだろう。

 緊張の高まりは双方によってもたらされているものだが、マスメディアは朝鮮が一方的に緊張を高めているという認識だ。
 例えば毎日新聞22/11/4)は、

北朝鮮が連日、ミサイルを発射して日米韓に対する挑発を強めている。地域の緊張を高める行為であり、断じて容認できない」

と一方的に朝鮮だけを非難。朝日新聞22/11/5)も、

「緊張の発端が、北朝鮮の危険きわまりない行動であることはいうまでもない。9月下旬から国連安保理決議に違反する弾道ミサイルを高い頻度で発射し、韓国に近い沿岸では砲撃を繰り返してきた」

と主張している。朝日新聞は韓国政府の「強硬一辺倒の対応」にも問題があると指摘はしているが、その理由は「北朝鮮に軍事挑発の口実を与えている」というもので、日米韓による軍事的な動きそれ自体が「挑発的」で地域の平和を害していると考えているわけではない。
 また、NHKが問題にするのも、朝鮮によるミサイル発射だけだ。

北朝鮮は今日……相次いでミサイルを発射しました。……その数は17発以上。北朝鮮がさらなる挑発に出る可能性もあり、南北間の緊張激化への懸念が強まっています」ニュース7、22/11/2)

北朝鮮による挑発行為が連日続いています。防衛省によりますと、今朝、北朝鮮から少なくとも3発の弾道ミサイルが発射され、……」ニュースウオッチ9、22/11/3)

 マスメディアには日米韓の軍事行動が朝鮮半島の緊張を高める要因になっているという認識が全くない。
 しかし日米韓、とりわけ米韓による合同軍事演習は、朝鮮政府が中止しなければ対抗措置を取ると度重ねて警告し、朝鮮側の軍事的な反発を招くことが十分に予測される中で行われたことだ(例:NHKニュース7、22/8/22;朝日22/8/23毎日22/8/23)。朝鮮側の軍事行動だけを「挑発」と呼んで一方的に非難するのは間違っている。むしろ朝鮮の軍事的反発を承知で軍事訓練を行っている日米韓の強硬姿勢を問題にすべきだろう。

 朝鮮のミサイル発射だけを問題にしていたのでは事態は好転しない。核・ミサイル開発を続ける朝鮮に対して、日米韓の軍事的連携強化の必要性を訴える声が日本や合衆国などでは大勢だろうが、NHK国際部デスクの高野洋(ニュース7、22/11/2)が指摘しているように、朝鮮は合衆国に対して「強硬対強硬」で臨む姿勢を鮮明にしている。日米韓が朝鮮を念頭に軍事的圧力を強めるなら、朝鮮も軍事的な対抗措置取ってくるだろう。朝鮮半島の緊張は高まるばかりだ。
 では、どうするのか。NHKの高野洋が省略した朝鮮政府の方針の後半部分に注目すべきだ。キム・ジョンウン総書記は、昨年1月に行われた朝鮮労働党第8回大会の演説(朝鮮中央通信、21/1/9)で、「力には力、善意には善意の原則に基づいて合衆国にに対する」と述べている。
 朝鮮戦争は現在休戦状態にあるが、戦争が終結したわけではない。戦争相手国が軍事力強化を図ったり、自国周辺で大規模な軍事演習を行えば、防衛のための軍事的な対抗措置を取るのは国家としては当然だろう。緊張緩和のためには、相手に対して敵意がないことを行動をもって示す必要がある。2017年から2018年初頭にかけて、核戦争の瀬戸際と言われる程までに高まった朝鮮半島の緊張状態を一転させ、唯一でなければごく少数の国家と一部の人々を除いて世界中に朝鮮半島の平和と非核化への希望を抱かせた史上初の米朝首脳会談(2018年、シンガポール)を実現したのも、永らく敵対関係にあった双方の不信を互いに払拭しようとする朝鮮・韓国・合衆国による努力の結果だった。その首脳会談では、ドナルド・トランプ大統領(当時)が「朝鮮の安全の保証」を確約し、キム・ジョンウンが「朝鮮半島の完全な非核化」に向けた責務を再確認した上で、両首脳は、「相互の信頼醸成」が朝鮮半島の非核化を実現する上で重要だという認識の下に、「新たな米朝関係の構築」と「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」、「朝鮮半島の完全な非核化」などで合意した(シンガポール共同声明)。
 その後、朝鮮政府は合意に従って幾つかの具体的措置を取ったが、合衆国政府が「朝鮮の安全の保証」や「新たな米朝関係」を後回しにして「朝鮮の非核化」だけを一方的に要求したため、残念ながら、米朝の交渉はそれ以降膠着状態に陥り、現在に至っている。特にハノイでで行われた2回目の米朝首脳会談(2019年)以降、朝鮮政府は合衆国に対する信頼を完全に失ってしまった。朝鮮は合衆国の対敵視政策は終わることがないとの判断の下に、核抑止力で国家の安全を担保し、自力で社会主義経済を発展させて人民の生活を向上させるという方針を固めた(朝鮮中央通信、20/1/1)。最近繰り返されている朝鮮のミサイル発射は、そうした方針に基づくものである。

 こうした経緯を考えれば、まずは合衆国が朝鮮に対する「善意」を示すべきだろう。バイデン政権は朝鮮に対して「前提条件なし」の対話を繰り返し呼びかけてはいるが、朝鮮に対する制裁や軍事力による圧力を続けながら対話を求めているのでは話にならない。合衆国に対する信頼を失い、「力には力、善意には善意」で応じると宣言している朝鮮政府は、合衆国の対朝鮮敵視政策が続く限り、対話に応じることはないだろう。まずは日米韓、とりわけ合衆国政府が朝鮮に対して敵意がないことを態度で示し、朝鮮半島の非核化と平和体制の実現へ向けた交渉を再開するための環境を整えなければならない。