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── Media Watchdog Group

朝鮮の「挑発」を止めたいなら、日米韓が先に挑発をやめてはどうか

 朝鮮半島の緊張が再び高まっている。合衆国と韓国は今年8月、2018年の米朝首脳会談シンガポール)以降規模を縮小して行ってきた米韓合同軍事演習を「正常化」させ、大規模な野外機動演習を交えて実施した。また9月後半にも、日本海で米軍の原子力空母や韓国のイージス駆逐艦などが参加する軍事演習を行ったり、日本を交えて対潜水艦戦訓練を行うなど、朝鮮への圧力を高めている。一方の朝鮮も、米韓・日米韓に対抗する形で、約2週間にわたる大規模な軍事訓練を実施し、その間に12発の弾道ミサイルの試射や発射訓練を行った。そのうちの一発は日本列島を横切る形で発射され、それに反応して米韓がミサイルを発射したり、日米韓が再び日本海で軍事演習を行うなど、双方による軍事的な応酬が続いている。

 朝鮮側の軍事的な動きだけを「挑発」と言い表す日本政府やマスメディア(例:NHKニュース7、22/10/4;ニュースウオッチ9、22/10/4;朝日22/10/5毎日22/10/5など)には、日米韓が地域の緊張を高めているという認識があまりないようだ。
 しかし、米韓や日米、あるいは日米韓による軍事演習は、朝鮮からすれば「挑発」に他ならない。特に米韓合同軍事演習については、朝鮮政府は中止するよう何度も繰り返し警告しており、演習実施後に朝鮮が何らかの軍事的な対抗措置を取ってくることは、マスメディアなどでも予測されていたことだ(例:NHKニュース7、22/8/22;朝日22/8/23毎日22/8/23)。朝鮮の軍事的な反応を誘発することが明らかであるにもかかわらず、軍事演習を強行するというのは愚策も愚策、朝鮮に対する「挑発」としか言いようがない。

 朝鮮の核・ミサイル開発を止めたいのであれば、朝鮮が当然ながら感じているであろう安全保障上のの懸念、つまり合衆国による侵略の脅威を解消する必要がある。
 朝鮮は建国以来、合衆国や韓国との戦争状態にある。1950年からの朝鮮戦争で合衆国に国土を執拗なまでに破壊され、1953年の休戦協定成立後も、核兵器による攻撃も含む合衆国の軍事的な脅威に常にさらされてきた。朝鮮政府がこの脅威から国家の安全を保障するための抑止力として核兵器を開発したことは、疑いようがない。従って、9月の最高人民会議(国会)の施政演説(朝鮮中央通信、22/9/10)でキム・ジョンウン総書記が「朝鮮が先に非核化することは有り得ず、その如何なる交渉にも応じるつもりはない」と明言しているように、米韓との戦争状態が継続し、合衆国とその同盟国の対朝鮮敵視政策が続く限り、朝鮮は合衆国に対する抑止力として絶対の信頼を置いている核兵器を放棄することはないだろうし、朝鮮の核放棄だけを目的にした交渉に応じることもないだろう。
 軍事的な圧力や経済制裁では決して問題は解決しない。朝日新聞22/10/5)も認めているように、「制裁や軍事演習などの強硬策で北朝鮮のふるまいを全面的に改めさせた前例がない」。
 ではどうするのか。米朝枠組み合意(1994年)や6か国共同声明(2005年)、シンガポール共同声明(2018年)など、朝鮮半島の非核化を巡る交渉で、朝鮮政府は核開発の中止や非核化に同意する際、関係国との関係改善や朝鮮への不可侵、朝鮮半島の平和体制構築など、朝鮮の安全が担保されることを条件にしてきたことを思い出すべきだ。核兵器を含む軍事力によって安全を担保する朝鮮政府の安全保障政策を改めさせたいのであれば、日米韓は朝鮮に対する敵対的な姿勢を改め、朝鮮の安全を保証する必要がある。日本や欧米では、国連安保理で新たな対朝鮮制裁決議や対朝鮮非難声明に反対する中国やロシアの主張をまともに受け取ろうとしない傾向が強いが、合衆国は朝鮮側の「正当かつ合理的な懸念」に応えるべきだという中国政府の指摘は正しい。

 「核戦力政策に関する法令」を公布した前出の最高人民会議の施政演説(朝鮮中央通信、同)で、キム・ジョンウンは法令によって「我が国家の核保有国としての地位は不可逆的なもの」になったと宣言し、核保有国の合衆国と対抗するために「絶対に核放棄はできない」と明言したが、一方で、朝鮮の「核戦力構築の旅」は「地球上に核兵器が存在し、帝国主義が残り、合衆国とその追随勢力による反朝鮮工作が続く限り」続くとも述べて、合衆国の脅威が解消された場合の非核化に含みを持たせている。朝鮮に対する敵視政策の撤回が、法令公布後の今でも朝鮮半島非核化の鍵となることを示しているのではないだろうか。
 朝鮮半島の非核化を実現し、東アジアの平和と安定を求めるなら、まずは日米韓が朝鮮に対する敵視政策をやめて、朝鮮半島の戦争状態を終結し、朝鮮との平和的な関係を構築する意志を態度で示す必要がある。