中国や朝鮮の脅威に備えて、日本政府は先日断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代わるミサイル防衛体制の検討や、安全保障戦略の見直しを行うそうだ。自民党からは「抑止力」を高めるために憲法違反の「敵基地攻撃能力」を保有すべきだという意見も出ており、日本政府はこれまでと同様に中国や朝鮮の「脅威」を理由に日本の軍事力の増強を図るだろう。しかし軍事力の増強で地域の長期的な平和と安定を築くことはできない。
日本政府が中国の「海洋進出」や朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に「敵基地攻撃能力」の導入などを含む安全保障戦略の改定に向けた議論を行うことについて、NHK政治部防衛省クラブキャップの稲田清は、イージス艦の任務が増えていることがその背景にあると述べて次のように説明する。
「例えば、先週、中国海軍のものと見られる潜水艦が領海のすぐ外側を航行した際には、このイージス艦も追尾に当たりました。また北朝鮮の弾道ミサイルですけれども、急速に能力を上げていまして、新型のものは比較的低い高度をコースを変えながら飛翔していて、技術の急速な向上を示しているんです。このイージス艦ですけれども、来年春には1隻増えて8隻となり、さらに増やす案も取り沙汰されていますが、建造には5年かかるうえ、乗組員の確保も課題になっているんです。……ミサイル防衛体制だけでなく、安全保障戦略全体の見直しを進めていく背景には、こうした実情があり、政府が中長期的な安全保障環境の変化も見据えて、敵基地攻撃能力の保有などについても道筋を探る可能性もあります」(ニュースウオッチ9、20/6/24)
しかし流通経済大学の植村秀樹教授(毎日20/6/16)が指摘するように、
「北朝鮮が軍備を拡張すれば日本も装備を拡充させるという単純な話ではなく、安全保障政策は政治・外交的な手段を含めて総合的に判断すべきだ」
自民党内には元防衛大臣の石破茂議員や小野寺五典議員などを中心に、「抑止力」として「敵基地攻撃能力」の保有を強く求める声が出ているようだが、朝日新聞(20/6/20)などが指摘しているように、
「政府が敵基地攻撃能力を保有する議論を始めれば、中国や韓国など周辺国を刺激する可能性がある。専守防衛を掲げる日本にとって危うさをはらむ議論で抑止力につながるかどうかは見通せない」
中国や朝鮮が軍事力を増強しているのは、合衆国の軍事的な脅威に対抗するためだ。
中国は周囲を400以上の米軍基地に囲まれている。米軍は中国が交易を行う海域を封鎖する演習を行うなど中国に対する砲艦外交も行っており、米軍の存在が中国にとって脅威となっている。米軍の辺野古新基地建設や、南西諸島での自衛隊の基地建設も、中国が軍拡を図る一因になっているだろう。朝鮮は合衆国の敵視政策に苦しめられ、米軍による核攻撃などの脅威にもさらされてきた。朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの開発は、合衆国による侵略を抑止するためのものだ。
もしもカナダやメキシコが「反米親中国家」となり、中国軍の基地がカナダやメキシコ、カリブ海の島々などに建設されたら、合衆国はどのように対応するだろうか。朝鮮のキム・ジョンウン委員長は、合衆国の脅威がなくなれば核兵器を持つ理由がないと述べている。中国や朝鮮の軍拡を止めさせ、東アジアの軍事的な緊張を緩和したいなら、その原因となっている米軍による脅威を取り除くべきだろう。
日本は冷戦終結後も合衆国との軍事的「同盟」を強化し、軍事力の増強を図ってきたが、日本が軍事力を増強すれば、周辺国も軍事力の増強で応じることになる。中国の「海洋進出」や朝鮮による核・ミサイル攻撃を、武力によって防ぐことはできない。求められるのは、軍事力に頼らぬ東アジアの安全保障体制の構築だ。
マスメディアが如何にニュースを伝えるかによって、安全保障戦略の議論の枠組みが定まる。東アジアに本物の平和と安定をもたらすために、対話や近隣諸国との信頼関係に基づく安全保障戦略の策定へと議論をリードするよう、マスメディアに求める。