Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

白人至上主義者とそれに抗議する人々を同等に扱うトランプ大統領とNHK

 合衆国バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者の集会に抗議する群衆に白人至上主義者の車が突っ込み1人が死亡、19人が負傷した事件について、ドナルド・トランプ大統領は白人至上主義者とそれに抗議する人々の「双方に非がある」と述べて非難されているが、NHKニュース7ニュースウォッチ9も、双方に非があるかのようにニュースを扱っている。

  ニュース7ニュースウォッチ9はこの白人至上主義者による明らかなテロ事件を、ニュースの主題としてではなく、「白人至上主義を掲げるグループと、それに抗議するグループの激しい衝突」の中での一場面として扱っている。

 例えばニュース7(17/8/13)は、

寺門亜衣子(アナウンサー):「白人こそがアメリカを支配すべきだとする白人至上主義。南部のバージニア州で、こうした主張を掲げるグループが集会を開こうとしていたところ、これに抗議するグループとの衝突が発生し、1人が死亡、30人余りがけがをしました。現地からは、衝突の激しさがうかがえる映像が届いています。一体、何がきっかけだったのでしょうか」

ニュースウォッチ9(17/8/14)は、

桑子真帆(アナウンサー):「アメリカ南部で起きた白人至上主義を掲げるグループと、それに抗議するグループの激しい衝突についてです」
有馬嘉男(キャスター):「深まるアメリカ社会の分断。これまで排他的な発言をしてきたトランプ大統領の姿勢が改めて問われる事態になっています」

とそれぞれ冒頭でニュース項目を紹介しているが、仮に“イスラム教徒”が運転する車が群衆に突っ込んだ事件だった場合、冒頭でこのようなニュースの伝え方をするだろうか?
 特にニュース7の伝えるニュースの概要は、テロ行為で人が殺されたというよりも、双方による暴力行為の結果、人が亡くなったかのような印象を与える。「衝突の激しさがうかがえる映像」とは、おそらく白人至上主義者に抗議する群衆に車が突進したことを指すのだろうが、こうしたテロ行為の婉曲表現も“イスラム教徒”が容疑者の場合には用いられないだろう。

 事件を詳細に伝える中でもニュース7は、

「こちらは白人至上主義などを掲げるグループのメンバーです。集会を開こうと通りを進みますが、抗議する市民グループが立ちふさがります。そして、いきなりもみ合いに。双方は棒で殴り合うなどして、地元の警察によりますと15人がけがをしたということです。……その周辺では、1台の車が人の集まるほうへ突っ込んでいきます。その直後、先ほどの車が後ろ向きのまま走り抜けていきます。衝突した衝撃でしょうか。バンパーが外れています。この騒ぎで32歳の女性が死亡し、19人がけがをしました。警察は車を運転していたオハイオ州のジェームズ・フィールズ容疑者を殺人などの疑いで逮捕しました」

と伝えており、やはりテロ事件というよりも、「双方」によるもみ合いの延長で起こった死傷事件としてニュースを扱っている。また、少なくともニュース7が放送したこの時間までに、車は白人至上主義者に抗議する群衆の中に突進していったことが明らかになっているが、ニュース7はニュースの中でテロ事件の容疑者や被害者の属性について明らかにしていない。しかも、明らかなテロ行為について「テロ」という言葉を一度も用いずに、「この騒ぎで32歳の女性が死亡し、19人がけがをしました」と表現するに至っては、NHKは白人至上主義者のテロは「テロ」と呼びたくないのかと思われても仕方がないのではないか。

 ニュースウォッチ9も事件の内容については、双方による暴力行為の結果起こった死傷事件としてニュースを伝えている。

「白人至上主義や極右思想を掲げるグループ数百人に対し、別の市民グループが抗議。双方が殴り合うなど激しく衝突しました。さらに、その現場に白人至上主義を掲げる男が運転する車が突っ込みました。車は周りにいた人々に取り囲まれると、猛スピードでバック。この混乱の中で1人が死亡、30人以上がけがをしました」

 また、ニュースのまとめのところでも桑子真帆が、

「今回の映像、初めて見たときに、あまりの暴力の激しさ、殴り合いのそのすさまじさに衝撃を受けたんですけれども、今回の衝突というのは、きっかけが150年以上も前に遡って、その南北戦争のときに遡って、今もその対立が続いているんですよね」

と述べるなど、白人至上主義者によるテロ行為が、「双方による衝突」の背後に隠れてしまっている。
 有馬嘉男は、

「トランプさんの登場以降……これまで様々な過激な発言ありました。それがこうした差別的な言動、排他的な言動、許されるのではないかという風潮が広がっているように思うんですけれども」

 と、合衆国で人種差別が増長していることに懸念を示してはいるものの、

「白人至上主義に反対するグループが暴力にこうして訴えていることもあって、社会の融和がますます遠いものになっているんですよね」

とニュースを結んでいる。

 有馬が述べている通り、人種差別的発言を繰り返し、イスラム教徒を排除しようとする政策を進めるトランプが人種差別を増長しているとの指摘がある。ニュースウォッチ9も伝えている通り、合衆国では「白人至上主義者によると見られるモスクの爆破や衝突などが相次いでおり、社会の分断が際立つ状況となって」いる。そうした状況の中で、白人至上主義者によるテロ行為を「白人至上主義者とそれに抗議する人々の衝突」の一場面の中に矮小化したり、人種差別に抗議する人々の「暴力」が人種差別者である白人至上主義者の暴力と同等であるかのように扱うことは、まさにトランプがやっていることと同じであり、白人至上主義者を擁護しているとのトランプへの批判がそのままNHKにも当てはまる。
 白人至上主義者の集会に抗議するために立ち上がった人々は、人種差別を認めるわけにはいかないと、暴力的な白人至上主義者の前に立ちはだかった勇敢な人たちだ。そうした勇気に焦点を当てることこそ、人種差別を許さない社会で求められるメディアの役割ではないだろうか。