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北朝鮮の核・ミサイル問題                          それでも、「焦点はやはり中国の対応」(ニュースウォッチ9)

 ニュースウォッチ9NHK)は、北朝鮮の核・ミサイル問題は中国に責任があるという考えに固執している。もちろん、中国は北朝鮮と同盟国であり、北朝鮮は貿易の大半を中国に依存していることなどから、中国の北朝鮮に対する影響力は大きい。しかし、北朝鮮が核・ミサイル開発を進めている最大の原因は、中国ではなく合衆国だ。

 世界的に知られる言語学者で体制批判者である、マサチューセッツ工科大学教授のノーム・チョムスキー氏によれば、合衆国によるイラク侵略(2003年)は、世界各国に「核による抑止力を手に入れなければ、攻撃される」という教訓を与えた(『チョムスキー、民意と人権を語る』、集英社)。
 実際、北朝鮮も、合衆国のイラク侵略を受けて、

「『戦争を回避し国の安全と民族の自主権を守るためには、ただ強力な物理的抑止力を保有することが必要であるという教訓を与えた』などと抑止力の必要性を主張するようになった」久古聡美、国立国会図書館、調査と情報、775号

 ニュースウォッチ9(17/3/8)も、3月6日にミサイルを発射した北朝鮮が、核・ミサイル開発を進める理由について、北朝鮮の元公使、テ・ヨンホ氏の証言を紹介している。

「(朝鮮労働党金正恩委員長は)独裁者たちの末路がどうなったか見てきた。イラクフセインリビアカダフィだ。核兵器保有していれば、絶対に攻撃できないと金委員長は信じている。だから絶対に核を放棄しない」

 北朝鮮と合衆国・韓国は、現在休戦状態であり、朝鮮戦争(1950年~)がまだ終結していないことも考えれば、北朝鮮の核開発の動機が、合衆国に対する抑止力であることは間違いないだろう。

 また、今回の北朝鮮のミサイル発射については、ニュースウォッチ9(17/3/6)が指摘している通り、「背景には、今月1日から始まったアメリカ軍と韓国軍の合同軍事演習があると見られ」る。
 北朝鮮にとって、合衆国と韓国が、韓国や朝鮮半島周辺海域で、毎年この時期に行っている合同軍事演習は、脅威であり、挑発行為と映る。
 特に今回の

「およそ2か月間にわたる演習は、コンピューターを使っての図上訓練と、米韓両軍の海兵隊による上陸訓練からなり、北朝鮮の指導部を狙った訓練や、核やミサイルの施設を攻撃する訓練も行われる見通しです」ニュースウォッチ9、17/3/1)

 中国の王毅外相が、

「今月1日から行われているアメリカと韓国による大規模な軍事演習について、北朝鮮に対する軍事的な圧力を強めていると懸念を示し……現状を正面衝突寸前の2本の列車に例え、関係するすべての国に自制を強く求め」ニュースウォッチ9、17/3/8)

たのは、至極当然のように思われる。
 ニュースウォッチ9(17/3/7)のインタビューに応じた金沢工業大学虎ノ門大学院、伊藤俊幸教授も、

「いきなり日本に一発目が飛んでくるということは、その瞬間にアメリカが打ち返して、金王朝がなくなるわけですから、そこはさすがに抑止力の中でやらないと思います。お互いこれ以上エスカレーションしないようなやり取りっていうのが必要」

と警告している。

 ニュースウォッチ9(17/3/8)は、北朝鮮の核開発の動機や、米韓軍事演習が軍事衝突に発展する可能性を伝えておきながら、6日の北朝鮮のミサイル発射のニュースを次のようなコメントで終えている。

キャスター、鈴木奈穂子:「焦点はやはり中国の対応というところでしょうか」
キャスター、河野憲治:「そうだと思いますね。中国は北朝鮮からの石炭の輸入を今年いっぱい停止するという風に先だって発表して、経済制裁をちゃんと履行していますよという姿勢は見せてはいるんですが、日米韓から見ると、中国はもっとできることがあるはずだと、もっと北朝鮮に対して圧力を強めてもらいたいというところですよね。ところが、中国はというと、トランプ政権の中国とか北朝鮮に対する政策が、どうなっていくのかというのを見極めている段階ですから、なかなかすぐに動くっていうのは考えにくい……国際社会としては、具体的に何ができるのか、北朝鮮に対してね、となると、なかなかそれは難しい問題ではないかという風に思います」

 ところで、ニュースウォッチ9は伝えていないけれども、これまで、北朝鮮政府は、米韓合同軍事演習の中止や、合衆国と北朝鮮との平和協定の締結を条件に、北朝鮮の核実験中止や朝鮮半島の非核化を提案してきた。しかし、合衆国政府は、これを拒否してきた。

 例えば、

北朝鮮の李洙ヨン(リスヨン)外相は……米国が朝鮮半島周辺で行っている米韓合同軍事演習を中止すれば、北朝鮮も新たな核実験を中止する用意があると提案。オバマ氏はこれに対し、『北朝鮮が(核)実験を停止すると決断するまでは、こうした約束は真剣に受け止めない』と一蹴した」朝日16/4/25夕刊

 また、昨年7月6日、北朝鮮政府は、声明で、

朝鮮戦争『休戦協定』を終結し『平和協定』を締結することを再度提案するとともに、『非核化協議』に前向きに応じるための次の5つの条件を提示した:①朝鮮半島のすべての核兵器の存在を公表すること、②韓国にあるすべての核兵器及び核基地を検証可能な形で撤去すること、③朝鮮半島及びその近傍に核兵器を配備しないこと、④いかなる場合もDPRK北朝鮮]に核兵器による威嚇を行わないこと、⑤核兵器を使用する権限のある部隊すべての韓国からの撤退を宣言すること」核兵器・核実験モニターピースデポ16/8/1)

 朝日新聞(16/7/8)は、この声明について、北朝鮮は「事実上、話し合いによる解決を放棄し、核保有国としての地位を認めるよう国際社会に迫っている」と、歪曲して伝えているが、北朝鮮政府の示した条件は、決して非現実的なものではない。なぜなら、

「『声明』の5項目のうち、⑤を除く4項目は、1992年の『朝鮮半島非核化のための南北共同宣言』、『第4回6か国協議』[2005年]における『9.19共同声明』などですでに合意されている」(核兵器・核実験モニター、同)

 しかし、この声明の直後、合衆国政府は、人権侵害を理由に、金正恩らを対象とした北朝鮮への経済制裁を発表した。
 バラク・オバマ合衆国前大統領の対北朝鮮政策は、「戦略的忍耐政策」と呼ばれているけれども、オバマには北朝鮮政府と交渉するつもりがなかったとしか思えない。
 それでも、北朝鮮の核・ミサイル問題の焦点は、中国の対応なのだろうか。