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── Media Watchdog Group

マスメディアは日本の「加害者」としての「戦争の記憶」にも焦点を当てるべきだ

 戦争体験を語れる人が少なくなる中、「戦争の記憶」をどのように継承していくかという課題が、マスメディアでも取り上げられることがある。しかし日本のマスメディアが注目するのは、日本の「犠牲者」としての記憶ばかりだ。

 例えば、「終戦」を記念して全国で行われた追悼式などの様子を伝えたニュース7(21/8/15)は、瀧川剛史キャスターが、

終戦から今日で76年です。感染の拡大で、各地の追悼式や集会は今年も規模の縮小などを余儀なくされましたが、戦争の悲惨さを伝え、そして引き継ぐ、様々な世代の姿がありました」

とニュースの冒頭で述べた後、各地で行われた追悼式などの様子を紹介しているが、番組の中で犠牲者として登場するのは、墜落した零銭に乗っていたとみられるパイロット2人と、戦争に行けるような体ではなかったにもかかわらず戦地に駆り出されて中国で亡くなった男性など、日本の犠牲者だけだ。瀧川剛史は、

「戦争の記憶を受け継いでいこうと、若い世代も参列しました」

と述べているが、ニュース7にとって「戦争の記憶」は日本が被害を受けた記憶だけで、日本がアジア諸国を侵略した記憶や、アジア太平洋戦争で犠牲になった2000万人ともいわれるアジア太平洋地域の犠牲者のことなど全く念頭にないのだろう。
 菅義偉総理大臣は、ニュース7も伝えた全国戦没者追悼式の式辞の中で、アジア諸国に対する加害責任について一切言及しなかった。総理大臣が式辞の中で加害責任に言及しないのは、前任者の安倍晋三以来、9年連続だが、「加害者」としての「戦争の記憶」に関心のないニュース7が、そんなことを指摘するはずもない。

 ニュース7は、これに続いて伝えた閣僚の靖国神社参拝のニュースでも、日本の「加害者」としての「戦争の記憶」を無視している。
 ニュースの一番最後になってようやく、韓国外務省の「報道官の論評」として、「過去の侵略戦争を美化」する靖国神社に「戦争犯罪者」が「合祀」されているという事実に触れるまで、ニュース7はなぜ閣僚が靖国に参拝することが問題になるかという基本的な説明を怠り、参拝した萩生田光一文部科学大臣と記者の次のようなやり取りなどを紹介している。

萩生田光一:「先の大戦尊い犠牲となられた先人の御霊に謹んで哀悼の誠を捧げ、改めて恒久平和への誓いをしてきた」
記者:「現職閣僚の参拝について中韓が反発強めておりますけれども」
萩生田光一:「自国のために尊い犠牲となられた先人の皆さんに尊崇の念をもってお参りするのが自然な姿だと思ってますので、ご理解を頂けると思います」

 「先の大戦尊い犠牲となられた先人」、「自国のために尊い犠牲となられた先人の皆さん」に「哀悼の誠を捧げ」、「恒久平和への誓い」をする。結構なことではないか。靖国神社が過去の日本の侵略戦争を肯定し、東京裁判A級戦犯として有罪となった14人もそこに祀られているという背景を知らなければ、大臣の「哀悼の誠」と「恒久平和」の願いを、誰が否定するだろう。日本の「加害者」としての「戦争の記憶」を知らなければ、なぜ中国や韓国は戦争の犠牲者を追悼する日本の純真な気持ちにいちいち口出しするのかと考えるのではないか。

 ニュース7に限らず、毎年8月に集中する戦争についての報道番組など、他のマスメディアでも日本の侵略に焦点を当てたものは最近は少なくなった。学校の教科書も、大日本帝国時代の性奴隷制度の問題などが、政府に都合のいいように書き換えられていく。こんな風にして、国家にとって都合の悪い「記憶」は掻き消されていくのだろうか。
 戦争で犠牲となった日本の被害者を追悼することはもちろん大切なことだ。しかし、日本や合衆国、英国、フランス、ドイツなど、「先進国」と呼ばれる国家が行う戦争は、基本的にはみんな侵略戦争だ。次の戦争を防ぐためには、マスメディアは「加害者」としての「戦争の記憶」を消し去ろうとする日本の国家権力に加担するのではなく、侵略者としての「戦争の記憶」にこそ焦点を当てなければならない。