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── Media Watchdog Group

日本の謝罪と賠償無しに “徴用工” 問題は解決しない

 韓国のユン・ソンニョル政権が、“徴用工” を巡る問題についての解決策の案を発表した。韓国大法院(最高裁)が被告の日本企業に命じた賠償金の支払いを、韓国政府傘下の財団が韓国企業からの寄付金を募って肩代わりするというものだ。しかし裁判で原告の被害者が求めているのは、大日本帝国時代の強制労働者の加害者である日本政府や日本企業の謝罪と賠償である。被害者の救済という本来の目的を無視したユン政権の案で、問題が解決しようはずがない。

 マスメディアは、相変わらず日韓請求権協定(1965年)で問題は解決済みだと主張する日本政府の「立場」が正しいという前提でニュースを伝えていて(例:NHKニュース7、23/1/12;朝日23/1/1123/1/13毎日23/1/13)、この問題を解決する責任が加害者側の日本政府や日本企業ではなく、被害国側の韓国政府にあるかの印象を与えている。
 しかし、日韓請求権協定で大日本帝国時代の強制労働被害者の救済問題は解決していない。なぜなら、日韓請求権協定は国家間の約束事であって、国家間の条約によって個人の請求権まで消滅させることはできないからだ。しかも日韓請求権協定は、当時のパク・チョンヒ軍事独裁政権が反対する市民を弾圧して強引に締結した協定であり、協定によって日本から韓国側に供与されたのは賠償金ではなくて無償3億ドル分の日本の生産物と役務だった。被害者のことを全く考慮に入れていないこのような協定で、どうして強制労働被害者の救済問題は解決済みだと言えるのか。大日本帝国時代の強制労働の被害者を救済する責任は、加害者である日本政府と日本企業にある。

 中国やロシアの事となると「人権、人権」と騒ぎ立てる日本政府やマスメディアが、自国の犯した人権侵害や戦争犯罪について人権問題として認識していないというのも問題だ。“徴用工” 問題で日本政府やマスメディアが懸念しているのは、被告の日本企業に「損害」が及ぶことである。
 この間、マスメディアは裁判で差し押さえれている日本企業の資産が「現金化」される事態となることを特に問題視してきた。
 例えば、ユン政権の解決案を「現実的」と評価する毎日新聞23/1/13)社説は、

「問題解決のために残された時間は多くない」

と述べているが、それは高齢化している被害者の救済のために残された時間の事ではなくて、日本企業の資産の「現金化」や、緊迫する朝鮮半島情勢などを考えての事である。毎日新聞は次のように続ける。

「韓国で差し押さえられた日本企業の資産を売却する『現金化』の司法プロセスは最終段階にある。実行されれば、制裁の応酬という事態に陥りかねない。
 北朝鮮の核・ミサイル開発など両国を取り巻く国際情勢は厳しさを増している。日米韓連携の強化が急がれており、日韓がいがみ合いを続ける余裕はない」

 朝日新聞23/1/11)も同じように、

「韓国では判決を受けて日本企業の資産が差し押さえられている。賠償に充てるために売却される『現金化』に至れば、日韓関係のさらなる悪化は避けられず、両国は解決をめぐる外交協議を急いできた」

などと説明している。
 マスメディアにとって “徴用工” 問題とは、如何にして日本企業の資産の「現金化」を防ぐかということが最大の焦点であり、日本政府や日本企業によって苦しめられている被害者の救済のことなど問題ではないのだ。

 これでは日本社会に “徴用工” 問題は人権問題だという認識が広まっていないのも無理はない。しかし市民社会では被害者の意向を無視したユン政権の解決案に異議を唱え、日本政府と日本企業に対して問題の解決を図るよう要求する声も上がっている(レイバーネット23/1/16強制動員真相究明ネットワーク)。
 こうした声をさらに強め、日本政府と日本企業に対して被害者への謝罪と賠償を行うよう圧力をかける必要がある。被害者に対する加害者の謝罪と賠償なしに、この問題の解決はない。