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── Media Watchdog Group

庶民の負担を増やさずとも、国庫負担の増額で社会保障制度は持続可能だ

 記録的な円安や原油高などによる物価高騰が庶民の生活に打撃を与える中、今年4月に年金の受給額を減額し、10月からは75歳以上の医療費窓口負担を倍増させた日本政府は、さらに医療・年金・介護の社会保障分野で庶民の負担を増やそうとしている。

 NHK朝日新聞毎日新聞などマスメディアの情報をまとめると、日本政府は、75歳以上の保険料及び国民健康保険料の上限額引き上げや、75歳以上の人が支払う保険料が占める医療費の財源負担率を75歳以上の人口増加に応じて上げる仕組みの導入、国民年金の保険料の納付期間の延長、「一定以上の所得」がある高齢者の介護保険料の引き上げ、介護保険料の納付開始年齢引き下げと介護サービス利用年齢の引き上げ、介護保険サービスの利用料2割・3割負担(原則は1割負担)の対象者拡大、要介護1及び2の保険給付除外、ケアプラン(介護サービス計画)作成の有料化などを検討している。
 マスメディアは概ね、少子高齢化でやむを得ないのだと説明している。

「高齢者にかかる医療費は増加の一途で、これを支える現役世代の負担も膨らんでいる。このため、高齢者自身の負担も増やすことで世代間の負担の公平性を確保する狙いがある」(村井隼人、朝日22/10/27

少子高齢化が一層進み、社会保障を支える現役世代が減少する中、給付水準の目減りに歯止めをかけ、年金財政の悪化を食い止める狙いがある」(石田奈津子、毎日22/10/26

「日本は今後も少子高齢化が続くと見られますので、年金の財政は厳しくなり、給付の水準も下がっていくことが予想されています。こうした中では、負担増の議論をしていくのは、避けられない状況です」NHK解説委員・牛田正史、ニュース7、22/10/27)

「(介護保険料の見直しの)議論の背景にあるのは、急速に進む日本の高齢化と、制度を支える世代の減少です」ニュースウオッチ9、22/10/31)

 しかし、庶民の負担を増やさずに社会保障制度を維持する方法はある。マスメディアの議論ではほとんど排除されているが、国庫負担を増やすことによって、それは可能だ。
 例えば、後期高齢者医療制度では、窓口負担分を除いた医療費の財源は、75歳以上が支払う保険料(約1割)と公費(約5割)、 “現役世代” が加入する健康保険からの拠出金(約4割)で賄われているが、このうち、公費の部分は中央政府(国庫負担)と地方自治体(都道府県と市町村)が2対1の割合で負担している。つまり中央政府は、窓口負担を除いた医療費全体の3分の1しか負担していないのだ。後期高齢者医療制度導入の際に国庫負担率を大幅に引き下げたからだ。「老人保健制度が始まった1983年、窓口負担を含めた高齢者医療費全体に占める国庫負担の割合は45%」(赤旗、22/10/29)だった。国庫負担を45%に戻せば、高齢者の負担を増やさずに、“現役世代” の負担を緩和することさえも可能ではないか。
 同じように、介護保険制度や年金制度でも国庫負担を増やすことによって、庶民の負担を増やすことなく制度を維持することは可能だろう。
 財源はどうするのか。大企業や富裕層の税負担を増やすのが最善策だ。
 日本政府は1989年の消費税導入以来、法人税減税と消費税増税を繰り返してきた。特に日本を「世界で一番企業が活躍しやすい国」にすることを目標にしていた安倍政権下では、消費税増税を2度も強行する一方で、法人税の大減税を行い、その結果、大企業は空前の儲けを得て内部留保を積み上げた。コロナ禍や物価高騰で庶民や中小企業が苦しむ中でも、大企業は内部留保を増やし続け、2021年度末まで過去最高を更新し続けている(赤旗22/9/2)。
 また国債で賄うことも可能だろう。日本政府は5年以内に軍事費を現在の5兆数千億円から11兆円へと一気に倍増させようとしているが、自民党からは財源を国債で賄うべきだとの声も上がっている。軍事費倍増のために5兆円もの国債を発行することができるのなら、社会保障費だって国債で賄えないはずがない。

 少子高齢化で庶民の負担が増えるはやむを得ないという日本政府やマスメディアの説明を、はい、わかりましたと言って、納得して受け入れるわけにはいかない。