Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

高齢者への負担を増やすしか選択肢はないのか

 「全世代型社会保障改革」の名のもとに、日本政府は75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担を増やそうとしている。増え続ける社会保障費の抑制や、高齢者の医療費を支えるための拠出金を負担する「現役世代」の負担軽減のために、「能力に応じた負担をいただくことが必要だ」(菅義偉総理大臣)と言うが、本当に高齢者に負担を強いるしか方法はないのだろうか。

 マスメディアは、原則1割負担となっている75歳以上の高齢者の窓口負担を2割への引き上げる政府の方針を疑問視することなく既定路線として伝え、他に選択肢はないかのような印象を与えている。
 例えばNHKニュース7(20/11/15)は、

「75歳以上の人の病院などでの窓口負担は、年収およそ383万円以上の人たちは3割負担なんですが、多くの人たちは……1割負担です。政府は現役世代の負担を抑えるため、一定の所得以上の人は2割に引き上げる方針です。この一定の所得の線引きを巡って、今、意見が分かれています」

と述べて、今後の焦点は「一定の所得の線引き」を巡る議論だと伝えている。
 朝日新聞(朝日20/11/25)も、

「現在75歳以上の高齢者は窓口で医療費の1割を負担し、現役並みの所得の人が例外的に3割を負担している。政府は2022年度から一定以上の所得の人の負担を1割から2割に引き上げる方針で、どこで線を引くかが焦点になっている」、
日本医師会は『新型コロナ禍の影響が懸念されており、高齢者に追い打ちをかけるべきではない』として、2割負担は限定的にすべきだと主張。これに対し、健康保険組合連合会は、保険料を払って医療保険財政を支える現役世代の負担を軽減するために『(75歳以上の)52%を2割負担にする必要がある』とし、より広い層が負担すべきだとした」

 マスメディアの報道を見ていると、窓口負担増の対象となる人の所得水準をどうするかということだけが問題となっており、高齢者の負担を増やすこと自体は避けられないかのようだ。

 しかし「能力に応じた負担をいただくことが必要だ」というなら、大企業や富裕層の負担を増やし、公費による負担を増やすべきではないか。また保険制度がありながら、窓口でも医療費を負担しなければならないということ自体も問題だ。立教大学の芝田英昭教授(赤旗19/12/20)が指摘するように、

「そもそも受診抑制や財政削減を目的とした一部負担(窓口負担)は、社会保険にはあってはならないものです。……実際に先進諸外国では、近年医療の一部負担が軽減されたり、なくなっていく方向にあります。日本では逆にそれを増やそうと『応能負担』という言葉が持ち出されていますが、『応能負担』は、税や社会保険料での徹底こそ求められている……それを自公政権が税制で弱めてきたことが問題なのです」

 個人にばかり負担を押し付けるのは間違っている。「全世代型社会保障改革」と言うなら、儲かっている大企業や富裕層の負担を増やし、所得にかかわらず、いくつになっても安心して暮らせる社会保障制度を構築すべきだ。