政府の「全世代型社会保障検討会議」が中間報告を取りまとめ、「一定所得以上」の収入がある75歳以上の人の医療費窓口負担割合を現在の1割から2割に引き上げる方針を打ち出した。日本は高齢化による医療費の増大が今後も見込まれており、「現役世代」にこれ以上負担を強いることはできないのだから、能力に応じた負担が必要だと言われれば、「一定所得以上」の収入がある人の窓口負担を増やすことはやむを得ないのではないかと考えがちだ。果たして、本当にそうだろうか。
政府やマスメディアは「応能負担」という概念で、今回の高齢者の医療費窓口負担割合の引き上げを説明している。
「75歳以上の後期高齢者医療の負担の仕組みについて、負担能力に応じたものへと改革していく必要がある」(全世代型社会保障検討会議 中間報告)
「結局、政府は原則2割への引き上げは見送り、負担能力のある人を2割とする『応能負担』の方向性を固めた」(朝日19/12/20)
「今回の中間報告の特徴は、年齢にかかわらず、経済力に応じた『応能負担』を強化したことだ」(毎日19/12/20)
「年齢だけにとらわれず、経済力に応じて負担を求める応能負担の考え方が示されたのが、ポイントです」(NHK政治部・安藤和馬、19/12/19)
しかし所得に応じて窓口負担を増やすことを「応能負担」と言うには語弊がある。窓口負担自体が、医療機関を利用すればするほど負担が増える「応益負担」だからだ。
立教大学の芝田英昭教授は、次のように指摘する。
「そもそも受診抑制や財政削減を目的とした一部負担(窓口負担)は、社会保険にはあってはならないものです。……実際に先進諸外国では、近年医療の一部負担が軽減されたり、なくなっていく方向にあります。日本では逆にそれを増やそうと『応能負担』という言葉が持ち出されていますが、『応能負担』は、税や社会保険料での徹底こそ求められている……それを自公政権が税制で弱めてきたことが問題なのです」(赤旗19/12/20)
また中央社会保障推進協議会の山口一秀事務局長は、
「政府側は、民主的な運動の長年の要求を逆手にとるような形で『能力に応じた負担』という言葉をもてあそんでいる」、
「『能力に応じた負担』と言いながら、政府の発想には、大企業・大金持ち優遇税制の是正も所得の再分配もない」(同)
と批判する。
私たち一般庶民はマスメディアや政府のPRによって、社会保障費の財源と言えば消費税、社会保障を維持するための負担増と言えば、保険料の引き上げや窓口負担の引き上げなど、庶民の自己負担を増やすことだと思い込まされている。
しかし社会保障費を賄う財源としては、法人税を財源とした公費負担や保険料の事業主負担を増やすなど、他の選択肢もあるのだ。
「権力の監視」がマスメディアの役割であるなら、マスメディアは「応益負担」である窓口負担を「応能負担」と言って読者や視聴者を欺くのを止めて、本当の「応益負担」として「アベノミクス」で儲かっている大企業への負担増を選択肢として提示すべきだ。