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── Media Watchdog Group

米軍が存在する限り、地域の平和と安定は訪れない

 菅義偉総理大臣は、合衆国の大統領に就任したジョー・バイデン大統領と電話で会談し、 “日米同盟” を「一層強化」することや、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて「緊密に連携」することなどで一致し、中国や台湾との係争地である尖閣諸島における日米安保条約第5条の「適用」についても確認した。

 マスメディアは、今回の電話会談の内容を概ね好意的に受け止めているようだ。日米両政府が「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指すことで一致したことや、尖閣諸島における日米安保適用を確認したことが、日本とアジアにとって成果であるかのような伝え方をしているし(例えば、「対中国 日米が連携 バイデン氏 尖閣に安保適用 明言」、朝日、21/1/29;「日米首脳、中国けん制」「『インド太平洋』構想言及 バイデン氏、日本提唱表現のまま」、毎日、21/1/29など)、「アメリカ第一主義」を前面にして “同盟国” との関係を軽視してきた前政権からの決別を宣言しているバイデン政権下での “日米同盟” の強化にも期待しているようだ(「日米首脳協議 国際協調 共に立て直せ」、朝日、社説、21/1/29;「新政権下の日米関係 地域の安定を築く同盟に」、毎日、社説、21/1/29など)。

 しかし「自由で開かれたインド太平洋」構想とは、中国に対峙するために「民主主義」や「法の支配」などの「価値」を共有する国家間の枠組みだが、「民主主義」を謳いながら、価値観を共有する国家が連携して自分たちとは体制が異なると思われる国家と「対峙」するというのは矛盾しているのではないか。
 しかも、合衆国や日本が民主主義や法の支配で中国を批判できるのだろうか。
 世界各地で民主的に選ばれた政権を転覆してきた合衆国政府は、アジアでも民主的な動きを壊滅的なまでにぶち壊してきた。第二次世界大戦後間もない朝鮮半島では、日本の植民地支配から解放された市民による独立政府樹立に向けた動きを米軍が暴力的に潰し、現在まで続く南北の分断と朝鮮戦争の下地を作った。ベトナムでは第二次世界大戦後に再び同国を植民地支配しようとするフランスを支援し、1954年のジュネーブ協定でフランス軍が撤退すると、今度は南ベトナムに傀儡政権を樹立して、同協定が定める南北統一のための選挙を拒絶した。選挙は民族自決を掲げるホー・チ・ミンが優勢だったからだ。やがて住民の支持を全く得られない傀儡政権に見切りをつけると、軍事介入して数百万人のベトナム人を殺害した。インドネシアでは大衆に支持されたインドネシア共産党を敵視し、スハルトによる数十万人(最大で300万人と推定されている)もの共産党員やその支持者などの虐殺を支援している。
 こうした合衆国の蛮行に、日本も無関係ではない。朝鮮戦争ベトナム戦争のほか、イラクアフガニスタンへの侵略でも、合衆国は日米安保に基づき設置された日本の米軍基地から部隊を出撃させている。
 「民主主義」や「法の支配」は中国との対立軸にはならない。
 また尖閣諸島については、日本と中国、台湾が領有権を主張する係争地であり、日中は尖閣諸島の領土問題を棚上げにして国交を正常化した経緯がある。それにもかかわらず、米軍の軍事力を担保に尖閣諸島が日本の領土であると主張するなら、中国との緊張を高めるだけだろう。

 これまで、合衆国政府が世界各地で民主主義を壊してきたという事実を認め、米軍の存在が地域の緊張を高めているという現実に気づくべきだ。