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── Media Watchdog Group

NHKは国際法やイラン核合意を理解しているのか

 イラクに駐留する米軍基地が攻撃された報復措置として、合衆国政府は先月25日、シリア東部にある民兵組織の施設を空爆した。国連安保理の承認もなく、差し迫った軍事的脅威のない状況での軍事力行使は国際法違反だが、NHKニュース7(21/2/27)は、イラン核合意を巡るイランと合衆国の「駆け引き」の一環としてニュースを伝え、「核開発を加速」するイランへの対抗措置だと説明している。

「核問題を巡り対立してきたアメリカとイランの間で、活発な駆け引きが続いています。経済制裁の解除を狙って核開発を加速し、揺さぶりをかけるイラン。一方、アメリカは硬軟織り交ぜて対応する姿勢を示しています」

 冒頭でこう述べたニュース7は、合衆国が「アメリカ軍が駐留する基地で死傷者が出た攻撃などに対する措置」として「シリア東部にあるイランに関連する施設を空爆」したと伝えた後、合衆国政府はイランと「対話を行う用意があるという立場」も「強調」していると紹介。そしてイラン核合意から離脱した合衆国政府による経済制裁に苦しむイランが、「経済制裁を解除させたいという思惑」から、「核開発を加速」させて、合衆国政府に「揺さぶり」をかけていると説明し、「イランとアメリカの駆け引き」についての「専門家」の解説を伝えている。

「イラン側がいろいろゲームを仕掛けてきている中で、……まずは限定的にバイデン政権が、まぁ空爆という形で、対抗したと。まぁジャブの報酬の中で刻々とこの状況が動いてきているのかなと思います」三菱総合研究所・中川浩一主席研究員)

 続けて、中川浩一は今後について、次のように語る。

アメリカが……イランへ対話のボールを投げています。直近のポイントは……イランの核合意の枠組みの中で、イランが受けるかどうかってことだと思うんですけども、次の一手がどうなるかっていうのがこれからの試金石になる」

 ニュース7は軍事力を行使する一方で対話姿勢を示す合衆国政府の対応を「硬軟織り交ぜ」た対応だと表現しているが、合衆国のシリア空爆は明らかに国際法違反だ。国際法で軍事力の行使が認められるのは、国連安保理が認めた場合か、自衛の場合に限られている。合衆国政府の対応には全く正当性のない。「イラン側がいろいろゲームを仕掛けてきている」と言うけれども、イラン政府はイラン核合意に則って行動している。ウラン濃縮活動の強化など、イランによる核合意の履行縮小は、他の核合意締約国に「重大な合意不履行」があった場合にイランがとり得る措置として核合意で認められているものだ。イラン核合意は、イランが核開発を大幅に制限する一方で、国連や欧米によるイランへの制裁を解除するという約束だった。合衆国政府はイランが合意を順守していたにもかかわらず、イランに対する経済制裁を復活させ、核合意当事国であるヨーロッパ3カ国も合衆国による二次制裁を恐れて制裁を解除しなかった。イラン政府は合衆国の核合意離脱後、1年間自重した上で、核合意の段階的な履行縮小を開始した。合法的な対応をしているイラン政府と、国際法違反の合衆国政府の対応は全く釣り合いが取れない。「駆け引き」とか「ジャブの応酬」というのは全く不適切な表現だ。

 イラン核合意の現状についても、「アメリカが……イランへ対話のボールを投げています」というのはおかしい。イランの核合意履行縮小は、合衆国やヨーロッパ3カ国の合理不履行に対する対抗措置であり、イラン政府は欧米が制裁を解除すればすぐにでも核合意で定められた全ての責務を履行すると明言している。「イランの核合意の枠組みの中」で言うなら、「直近のポイント」は、合衆国政府が合意に従い、イランに対する経済制裁を解除するかどうかということになるだろう。