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── Media Watchdog Group

どれだけ学問の自由や言論の自由が制限されようとも、権力に忠実なNHKは自由だ

 日本学術会議の新規会員の任命を菅義偉総理大臣が拒否していることが問題になっている。日本学術会議の会員は、同会議が推薦した人物を総理大臣がそのまま任命することになっているが、菅義偉は勝手に法解釈を変更し、何の説明もなく、安保法制や秘密保護法などに批判的な6人の任命を拒否した。学問の自由や言論の自由を侵害する行為だが、NHK菅義偉が法律に基づいて判断しているかのような印象を与えようとしている。

 例えばNHKニュース7(20/10/5)は、前半部分で、政府の対応は「法律を理解しているとはとても思えない」(立命館大学大学院・松宮孝明教授)とか、「日本の学術自身が攻撃されている」(早稲田大学・岡田正則教授)などといった政府への批判の声を紹介しているが、後半部分で菅義偉の「内閣記者会のインタビュー」での発言を無批判に紹介し、政府に対する批判を打ち消している。
 菅義偉の発言を紹介した後半部分を要約すると、「学術会議に年間およそ10億円の予算を充てていることや、会員が公務員になることなど」から、

「推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきました。省庁再編の際に……議論が行われ、……総合的・俯瞰的な活動を求めることになりました。まさに総合的・俯瞰的活動を確保する観点から今回の任命についても判断さしていただきました」、

1983年の国会で学会からの「推薦」は「拒否はしない」と政府が答弁していることは承知しているが、

「学会の推薦に基づく方式から、現在は個々の会員の指名に基づく方式に変わっており、それぞれの時代の制度の中で、法律に基づいて任命を行っているという考え方は変わっていない」、

学問の自由への侵害については、

「学問の自由とは全く関係ないということです。それはどう考えてもそうじゃないでしょうか」、

任命拒否と政治的立場の関係についても、「全く関係ない」。

 ニュース7菅義偉の説明に全く疑問を呈していないが、日本学術会議法が定める唯一の会員推薦基準が「優れた研究又は業績」であるにもかかわらず、菅義偉が国会での政府答弁を覆して「総合的・俯瞰的活動を確保する観点」を基準に任命を拒否したなら、法律違反だ。「学会の推薦」から「個々の会員の指名」に基づく方式に変わったと言うと、個々の会員が恣意的な人選を行っているかのような印象を受けるが、各会員に推薦された候補者は「優れた研究又は業績」という基準に基づき、選考委員会によって判断されている。「学会の推薦」に基づく方式によって会員が各学会の利益代表化しているとの批判から、改正されたものだ。また冒頭でも述べたように、任命を拒否された会員候補者全員が安保法制や秘密保護法などに批判的な立場であることを考えれば、菅義偉のやっていることは政府に異議を唱える学者に対する弾圧であり、「日本の学術自身が攻撃されている」ことは明らかだ。
 また翌日のニュース7(20/10/6)は、会員の任命についての見解を政府内でまとめた2018年の文書を内閣府が野党に提出したことを紹介。

「この中では、日本学術会議について、国の行政機関であることから、総理大臣は会員の任命権者として人事を通じて一定の監督権を行使できると明記しています。
 その上で会員の任命について、憲法で定められた国民主権の原理からすれば、総理大臣に会議の推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えないなどとしています。
 一方で、科学者が自主的に会員を選出するという基本的な考え方に変更はないなどとして、総理大臣は会議からの推薦を十分に尊重する必要があるとしています」(アナウンサー・上原光紀)

 『動物農場』(ジョージ・オーウェル)で「戒律」が権力者の都合のいいように後から書き換えられていくシーンを彷彿させるが、これは法の「解釈の変更」ではないかという野党議員の指摘については、

「解釈の変更ではありません。公務員の罷免・任命権ていうのを内閣総理大臣が請け負って、国民に対する責任を負っている。その前提のもとに[昭和]58年[1983年]の答弁もなされている」

という内閣法制局担当者の回答を紹介して、説明終わり。
 公務員の任命権について規定した憲法15条については、任命拒否は「明らかに、法の目的に照らして不適当と認められる場合」に限られる(1969年7月24日の高辻正己法制局長官の答弁、引用は旗20/10/9)。6人の任命を拒否するなら、菅義偉は「明らかに、法の目的に照らして不適当と認められる」ことを示さなければならないが、ニュース7は追及しない。
 後は、

「内閣記者会とのインタビューにおいて菅総理は極めてきちっと説明をされた。単純な前例踏襲というのはもう認めないというのが……菅総理の政治姿勢そのものであります。国民にも伝わったんではないか」

と述べる世耕弘成参院自民党幹事長や、日本学術会議の在り方の問題に論点をすり替えようとする下村博文自民党政調会長の談話を聞かされ、視聴者は無理やり納得させられなければならない。
 NHK政治部官邸キャップ・長内一郎(ニュースウオッチ9、20/10/16)は、

「今回、任命にあたっての総合的・俯瞰的な観点、こういった説明が分かりにくいというのは否めないと思います。……学術会議の在り方に問題があるとすれば、具体的に何が問題なのかが分かるような、伝わるような説明がなければ、尾を引くことも予想されます」

と述べているが、問題は菅義偉の「説明が分かりにくい」ことではなく、菅義偉が法律に違反をしていることであり、批判されるべきは「学術会議の在り方」ではなく、菅義偉言論弾圧だ。

 今回の問題は学問の自由、そして表現の自由への侵害であり、学術会議に限らず政府に批判的な言論活動を委縮させることにもなりかねない。
 しかし政府に忠実なNHKにとっては関係ないことなのだろう。どんなに学問の自由や言論の自由が脅かされようとも、権力者に都合の良い放送をしている限りは、自由だ。