Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

中国に関する公正な報道をマスメディアに求める

 毎日新聞(20/9/27)は「日中関係と菅政権 法の支配が改善の基盤だ」と題する社説で、日中関係改善のための課題を挙げている。尖閣諸島周辺海域での中国公船の「領海侵入」、南シナ海の問題、それに中国政府が今年6月に施行した香港の国家安全維持法だ。

 曰く、

「今春以降、尖閣諸島の周辺海域では中国公船が領海侵入を繰り返している。日本政府は抗議したが、中国は自国領だと反論する」、
南シナ海では、中国公船とベトナム漁船の衝突事故や、中国の中距離弾道ミサイル発射があった。周辺諸国は批判している」、
「今夏には中国が香港国家安全維持法を成立させた。香港に『高度な自治』を認め、『1国2制度』を世界に約束していたはずだ」

 毎日新聞は、

「力にものをいわせる態度は地域の秩序を揺るがす。国際公約を軽んじる姿勢では信頼を損なう。中国警戒論が強まるのは当然だ」

と述べて、菅義偉総理大臣は「中国が前向きな姿勢を示すよう促す必要がある」と主張する。

 しかし、毎日新聞が挙げた日中関係改善のための課題は、いずれも一方的で独善的な認識に基づくものだ。
 まず尖閣諸島は、毎日新聞も述べているように中国も領有権を主張している。日本政府は領土問題は存在しないと主張しているが、尖閣諸島は日本と中国の他に台湾も領有権を主張する係争地だ。毎日新聞は日中平和友好条約が日中関係の「土台」だと述べているが、同条約は交渉の過程で尖閣諸島の領有権問題を棚上げにすることで合意に至った経緯がある。当時中国の副首相だった鄧小平は園田直外務大臣(当時)との会談で、尖閣諸島の問題の解決は後の世代に委ねようと提案し、園田直もそれが「日本独自の利益からいってもありがたいこと」(1979年5月30日の外務委員会での答弁)だと考えた。鄧小平の言葉通り、中国政府は日本の尖閣諸島の実効支配を黙認し、棚上げの約束を守っていた。それを日本政府が国有化したのだから、現在の尖閣諸島を巡る問題の責任は日本政府にある。尖閣諸島の問題を解決したければ、まずは中国政府と協議する必要があるだろう。
 また南シナ海の問題は、中国だけに責任を押し付けることはできない。毎日新聞は中国だけが南シナ海の緊張を高めているような言い方をしているが、南シナ海では中国を含む6か国が南沙諸島の領有権を主張し、そのうち5カ国が岩礁砂州を実効支配している。南沙諸島の領有権問題を利用して地域の緊張を高めているのが合衆国で、中国による南シナ海の軍事拠点化には中国に対する合衆国の軍事的圧力があることも念頭に置く必要がある(Bark at Illusions、20/9/11参照)。日本が中国を念頭に行っている南西諸島の軍事化や、南シナ海で行われる米軍の軍事演習への自衛隊の参加も、地域の緊張を高める要因となっているだろう。
 中国政府がテロ行為や政府転覆などを取り締まるために施行した香港の国家安全維持法については、表現の自由が制限されたり法律が恣意的に運用されるといった問題はあるが、同様の法律は日本や欧米にも存在する。中国に特有のものではない。また「一国二制度」というのは、アヘン戦争で略奪した香港を無条件で返還することを拒んだ英国の帝国主義の結果だった(Bark at Illusions、20/9/1参照)。
 中国などとの係争地である尖閣諸島の領有権を一方的に主張したり、南シナ海自衛隊が米軍と軍事演習を行ったり、香港の内政問題に干渉したりするなら、それこそ、「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉」や「すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないこと」などで合意した日中平和友好条約に反し、日本が「国際公約を軽んじ」ていることになるのではないか。

 朝日新聞(20/9/28)社説も、「中国の軍拡」や中国の「尖閣周辺での活動」、「台湾や南シナ海をめぐる緊張」、「新疆や香港などの人権問題」を懸案事項として指摘し、

「これでは中国への日本の世論があまり好転しないのも当然だろう」

と述べて、毎日新聞と同じような主張をしているが、時に二重基準を用いて南シナ海の問題や人権問題などで中国政府だけを一方的に貶めているマスメディアこそが、反中世論形成の一翼を担っていると言うべきだろう。
 日中関係改善のために、マスメディアには中国に関する公正な報道を求める。