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── Media Watchdog Group

合衆国による宇宙の軍事力強化は中国やロシアへの対抗措置だというプロパガンダに騙されるな

 NHKニュース7(19/6//23)は、合衆国が「中国やロシアに対抗」して「宇宙での軍事力強化」を進めており、宇宙での軍拡競争の懸念が強まっていると伝えている。ニュース7は、合衆国による宇宙の軍拡は中国やロシアへの対抗措置だと主張する合衆国政府の見解を、検証することなく無批判に伝えているが、中国とロシアを含む国際社会の声に反して宇宙の軍事化を進めてきたのは、合衆国だ。宇宙の軍拡競争を懸念するなら、合衆国の軍事政策と、「日米同盟」の強化でその補完を図る日本政府を批判しなければならない。

 ニュース7(19/6/23)に限らず、NHKは宇宙の軍事化について伝える際、合衆国による宇宙の軍事力強化の背景には、中国やロシアの脅威があると説明している。例えば、合衆国のドナルド・トランプ大統領が国務省に宇宙統合軍の創設を命じたことを伝えたニュース7(18/12/19)や、「アメリカの動向」に合わせて日本政府が新防衛大綱に従来の陸・海・空に加えた新たな領域として宇宙・サイバー空間の強化を盛り込んだことを伝えたニュースウォッチ9(18/12/13)、「宇宙を舞台にした米中の覇権争い」や、日米の宇宙・サイバー空間での「連携強化」などを伝えたニュース7(19/4/20)なども、その背景には中国やロシアによる宇宙の軍事力強化があると説明している。
 しかし冒頭でも述べた通り、宇宙の軍事化を防ごうとする国際社会の努力に背を向けて宇宙の軍事化を進めてきたのは、中国やロシアではなく、合衆国だ。国連総会では毎年、ロシアや中国などの提案で「宇宙空間における軍備競争の防止」や「宇宙兵器先行配備の禁止」などを求める採決が行われ、いずれも賛成多数で可決しているが、合衆国政府は常に棄権するか反対票を投じている。特に「宇宙空間における軍備競争の防止」については、合衆国とイスラエルを除いて、毎年ほぼ満場一致で可決している。事実は合衆国やNHKの主張とは反対に、以下に述べるように、宇宙の軍事化を進める合衆国に対して、ロシアや中国が対抗措置を取ってきたというのが真実に近い。

 ニュース7(19/6/23)が伝えているように、中国とロシアは「アメリカ軍の部隊を運用する際の命綱とも言える通信衛星などへの攻撃能力」を高めている。なぜ中国とロシアは人工衛星を狙うのか。ニュース7(19/4/20)はもう少し詳しく、次のように説明している。

アメリカ軍は部隊同士の通信からミサイルの早期警戒、兵器を誘導するためのGPSの位置情報まで、人工衛星を通じて統合されています。そのため衛星が攻撃を受ければ軍の能力が一気に低下する恐れがあります」。

 しかし、もっと重要なことは、合衆国が東アジアや東ヨーロッパで配備を進める「ミサイル防衛システム」は、実際には「攻撃用」の兵器だということだ。
 どういうことかと言うと、

「(合衆国)がロシアとの核戦争に勝つには、対衛星兵器を使用してロシアの早期警報システムを破壊し、そして、秘密の第一撃で、格納庫から発射される前のロシアのミサイルを破壊しなくてはならない。さらに、停泊中あるいは航海中のロシアの原子力潜水艦にも先制攻撃をかけて破壊する。……もし、初期攻撃を逃れたロシアのミサイルが発射されても、最近開発された弾道ミサイル防衛システムが、それをアメリカに向かう途中の空中で破壊する」ヘレン・カルディコット著『狂気の核武装大国アメリカ』集英社新書

 つまり、「ミサイル防衛システム」は核の先制攻撃に対する報復攻撃を無力化するために配備されるということだ。中国やロシアにすれば、核の先制攻撃も辞さない合衆国に対して抑止力を維持するための対抗措置が必要になるだろう。人工衛星を破壊する兵器の開発も、昨年の12月にロシアが開発に成功したと発表した極超音速ミサイルの開発も、合衆国に対する抑止力を維持するための対抗措置だ。

 日本で今問題になっている陸上型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」も、宇宙の軍拡競争や地域の緊張を高めることにつながる。2015年の安保法制定で、日本は合衆国の戦争に組み込まれることになっており、毎日新聞(18/11/2夕刊)などが、日本政府がイージス・アショアを配備しようとしている秋田県山口県は、それぞれインド太平洋軍司令部があるハワイ、米空軍基地のあるグアムに向けて、朝鮮半島から飛ぶミサイルの軌道線上にあることを紹介して、イージス・アショアが合衆国を防衛するためのものであると指摘しているが、イージス・アショアに搭載される最新レーダー「LMSSR」も迎撃ミサイル「SM3ブロックⅡA」も、中国とロシアを探知範囲と射程圏内に収めている(長周19/1/29)。

 宇宙での軍拡競争を回避し、平和な地球に暮らしたければ、まず合衆国や日本の軍事政策を批判すべきだ。