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── Media Watchdog Group

マスメディアはなぜ国際社会が求める知的所有権の一時放棄に反対している合衆国や日本政府を問題にしないのか

 日本でもようやく一般向けの新型コロナウィルスワクチンの接種が始まった。日本のワクチン接種は欧米や中国などに比べて遅れを取っていることから、「国産ワクチンの遅れ 中長期的な戦略が必要だ」(毎日、21/4/8、社説)、「ワクチン確保 中長期見据えた戦略を」(朝日、21/4/13、社説)といった声も上がっている。国家の安全保障の観点から、国産ワクチンの供給体制の重要性を訴えたい気持ちはわかるが、とりわけ今問題にすべきは、世界的に不足しているワクチンの供給量をいかにして増やすかということだ。

 もしワクチンが有効な手段であるなら、人類が新型コロナウィルスを克服するためには世界中の人口の大部分の人がワクチン接種を受ける必要がある。今、変異ウィルスが問題になっているが、多くの人がウィルスに無防備な状態では、それだけ変異の可能性を高めることになり、ワクチンの効果にも影響を与えるだろう。よく言われるように、「全ての人が安全でなければ、誰一人として安全ではない」のだ。国際社会は世界中の人々にワクチンが迅速に届くように協力すべきだろう。
 ところが現在、裕福な国家が限られたワクチンを囲い込み、低所得国などが入手困難に陥る「ワクチン格差」が問題になっている。自国の人口を上回るワクチンを調達しようとしている一部の身勝手な政府の行為も含め、原因はワクチンの供給が著しく制限されていることだ。ワクチン開発企業の知的財産権が供給の妨げになっている。
 ワクチンの供給不足の問題を解決するには、この知的財産権を無効にすべきだという議論が起こるのは当然だろう。世界貿易機関WTO)では、南アフリカ共和国やインドなどが新型コロナウィルスワクチンなどに関する知的財産権の一時放棄を求める提案をしている。これはWTOの「知的所有権の貿易に関連する側面に関する協定(TRIPS)」のルールに基づいたもので、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長(国連、21/3/5)も次のように述べる。

「これらの条項は、非常事態で使うためのものだ。もし今これを使う時でなければ、いつ使うのか。……WHOは、今がその条項を発動し、特許権を放棄する時だと信じる」

 この提案は100カ国以上の支持を得るなど国際的な支持を得ているが、日本や合衆国など一部の裕福な国家の政府が反対しているため、提案から半年以上経っても実現せず、未だに協議が続いている。

 自分たちの政府にとって都合が悪いからか、日本のマスメディアはこの提案自体、ほとんど伝えていない。例外として、毎日新聞(21/2/19)や日本経済新聞(21/3/1)が提案について伝えているが、「膨大な資金と技術を投入してきた製薬企業や、それを支える先進国は反対」しているとか、「米国や英国、スイス、日本などは『企業の技術革新や、研究開発の意欲がそがれる』などと猛反発」などと、反対する側にも正当性があるかのような印象を与えている。
 しかし製薬会社が「膨大な資金と技術を投入してきた」とか、「企業の技術革新や、研究開発の意欲がそがれる」というのは、嘘だ。なぜなら、新型コロナウィルスワクチンは、大部分が政府の資金で開発されたからだ。モデルナ社のワクチンに至っては100%政府資金だ(アチャル・プラバラ医師、Democracy Now21/1/1)。

 知的所有権が放棄されれば、多くの国や地域でワクチンの製造が可能になる。欧米などで現在消費されている多くの医薬品は「途上国」と呼ばれる国々で作られており、メッセンジャーRNA(mRNA)技術を用いた新しいタイプのワクチンでさえも、製造方法が分かれば、そうした国々でも製造できるそうだ(南アフリカ共和国WTO代表団メンバー・ムスタキーム・デ・ガーマ氏、Democracy Now21/2/25)。mRNA技術のワクチンへの応用は初めてだが、mRNA技術自体は新しいわけではなく、科学的磯や技能は「途上国」にも存在する(同)。

 菅義偉総理大臣とジョー・バイデン大統領は日米首脳会談の共同声明で、「パンデミックを終わらせるため、グローバルな新型コロナウイルス・ワクチンの供給及び製造のニーズに関して協力する」ことを確認した。マスメディアは、ワクチンを「世界の公共財」と位置付けて貧しい国々にもワクチンを提供している中国政府の行為を「ワクチン外交」などと揶揄している暇があるなら、なぜ日本や合衆国は知的所有権の一時放棄に反対するのかと自国政府に聞いてみるべきだ。