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── Media Watchdog Group

種苗法の改定で日本の優良品種の海外流出を防ぐことができるというのは嘘だ

 改定種苗法が成立した。登録品種の自家増殖が許諾制となり、農家の自家増殖の権利が著しく制限されることになる。改定法に関する政府の説明は嘘ばかりで、立法事実も破綻するなど問題だらけだが、マスメディアは追及を怠り、逆に日本産の優良品種を守るために必要な法改定であるかのような印象を与えている。

 まず、マスメディアは改定種苗法の目的に関する政府の説明に矛盾があることが明らかになっているにもかかわらず、種苗法の改定によって国産優良品種の海外流出を防止するという政府の説明を疑問視することなく伝えている。
 例えば、

「ブランドの果物などが海外に無断で持ち出される事例が後を絶たない中、これを規制する改正種苗法が成立しました」、
「改正種苗法は、国に新品種として登録された果物などの種や苗が海外に流出するのを防ぐため、開発者が輸出できる国や国内の栽培地域を指定できます。それ以外の国に故意に持ち出すなどした場合は罰則があります。この他、農家から流出するのを防ぐために、次の作付けに使う自家増殖を行う場合、開発者の許諾が必要になることなどが盛り込まれています」NHKニュース7、20/12/2)

「国内で開発されたブランド果実などの種や苗木を海外へ不正に持ち出すことを禁じる改正種苗法が2日、参院本会議で可決、成立した」、
加藤勝信官房長官は……法改正によって日本の優良な品種の海外への流出を防止できるとして『農産物の輸出促進を図る上で大きな意義を有している』と強調」毎日20/12/3)

 しかし「農家の自家増殖が海外流出につながった事例は確認されておらず、『海外流出の防止のために自家増殖制限が必要』とは言えない」(東京大学大学院・鈴木宣弘教授、日本農業新聞20/12/1)。また改定種苗法で海外流出を防ぐことができないことは、11月12日の衆議院農林水産委員会で太田豊彦局長が「海外流出を完全に止めるのは難しい」と答弁しているように、農水省も認めている。海外流出を防ぐには、海外で品種登録するしかないのだ。

 マスメディアは、改定種苗法によって強いられる農家の負担に関する政府の嘘についても、ほとんど追求しようとしていない。
 政府は農家が負担する許諾料について、ほとんどの品種が許諾の必要がない一般品種であり、許諾が必要な登録品種についても利用できないほど高額にはならないなどと説明しているが、「各地方で栽培されている重点作物は、登録品種がかなりの割合を占めて」いる(農民20/10/26)。登録品種数は僅かでも、実際の作付面積では登録品種の割合が政府の想定よりはるかに高い。また農水省は2015年に策定した「知財戦略2020」で「品種登録を大幅に増やすと宣言」しており、今回の「種苗法改定により、これまでよりもはるかにビジネス的な種子登録の動機付けが強くなるため、登録品種は増えていくことにな」るだろう(農民、同)。「自家増殖できる種子はどんどん限られてい」くことになり(農民、同)、2018年の国連総会で採択した「農民の権利宣言」に明記された農民の「自家増殖の権利」が侵害されることになるだろう。
 また、現在の許諾料が安いのは、

都道府県(地方自治体)が育成した品種だからだ。民間企業にこれらの種子が渡ったあと、これほど安価なまま許諾するはずがない。もしくは一切許諾せず、毎回購入することになるかもしれない」長周20/11/5)

しかも2017年に制定した農業競争力強化支援法によって、「独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見」は、「民間事業者」に「提供」することが求められている。
 マスメディアは、許諾料の負担や煩雑な許諾手続きなどを懸念する農家の声を伝えたとしても、こうした問題をほとんど追求しようとせず、

「今回の法改正、衆参両院の委員会の付帯決議では、改正によって農家が新しい品種を利用しにくくならないように、種や苗が適正価格で安定的に供給されるような施策を講じることや、農家に対して制度の見直しの内容について丁寧に説明することなどが盛り込まれています」NHKニュース7、同)

とか、

「(加藤勝信官房長官は)『自家増殖』に伴う許諾手続きが煩雑になるとの農家の懸念には『分かりやすいひな型を示すなどの対応を行う』として理解を求めた」毎日、同)

などと述べて、農家の懸念に配慮がなされているかのような印象を与えている。

 マスメディアはほとんど言及していないが、今回の法改定の背景には、種子を独占支配したいグローバル企業の存在があるだろう。モンサントなどのグローバル企業は、世界法益機関(WTO)や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などでも「知的所有権」の保護範囲の拡大を要求してきた。
 改定種苗法の批判者の多くが指摘しているように、種苗法の改定は種子法廃止や農業競争力強化支援法制定とセットで考えるべきだ。日本政府はプライベート企業の参入を促すために種子法を廃止し、前述したように、農業競争力強化支援法によって種苗に関する自治体などの知見をプライベート企業に譲り渡すよう求めた。自家増殖を制限し、農家に許諾料の支払いや毎年の種の購入を強いることになる今回の法改定で、グローバル企業による種子の独占支配への道をさらに開くことになるだろう。

 立法事実が破綻しているにもかかわらず、それを隠して種苗法改定によって日本の優良品種が守られるかのような印象を与え、農家の負担や種子の独占支配といった問題についてはほとんど追及しようとしない。
 結局、日本のマスメディアは権力を監視するためではなく、政府が大企業のために行う政策をPRするために存在しているのだ。