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辺野古違法確認訴訟:最高裁判決、確かに問題の決着ではないけれども・・・・・・

 沖縄県の翁長雄志知事が、仲井真弘多前知事が承認した辺野古沖の埋め立て承認を取り消した処分を巡り、政府が沖縄県を訴えた「違法確認訴訟」で、沖縄県の敗訴が確定した(最高裁第二法廷、鬼丸かおる裁判長)。最高裁は、仲井真前知事による埋め立て承認に違法な点が認められないため、それを取り消した翁長氏の処分は違法だと判断した。
 ニュースウォッチ9(16/12/20)は、辺野古新基地建設を巡って、少なくともこれで法的な決着がついたような印象を与え、普天間飛行場の移設先としては、辺野古に新基地が建設される以外に選択肢はないとの前提に放送している。

  しかし、これで辺野古新基地建設の是非が決着したわけではない。
 翁長知事は、かねてから辺野古期新基地建設の阻止の方策として、埋め立て承認の「取り消し」及び「撤回」を挙げていた。承認の「取り消し」は、前知事の承認に法的瑕疵があればその効力を失わせるもので、「撤回」は、承認の法的瑕疵の有無にかかわらず、承認後の新たな事象に基づき行うものである。
 今回、最高裁は、仲井間前知事が行った承認についての適法性を審理したに過ぎない。翁長知事は、自身の判断で承認そのものを撤回することができる。

 また、最高裁が仲井間前知事の承認に瑕疵がないと判断したことは、仲井間前知事の判断が適切であるということにはならない。辺野古新基地建設を受け入れるかどうか判断するのは裁判所ではない。菅義偉官房長官が繰り返し述べているように、確かに日本は「法治国家」ではあるが、民主国家でもある。
 翁長知事は、辺野古沖埋め立てを承認した仲井間前知事に10万票の大差で当選した[i]。また、前知事による辺野古沖の埋め立て承認以降、沖縄県では、名護市長選、衆院選の全4小選挙区参院選の全てにおいて辺野古新基地建設反対の候補者が当選している。
 沖縄県の民意は、はっきり示されており、政府はこうした民意を反映した政策をするための協議を沖縄県と行うべきではないだろうか。政府が繰り返し主張している「普天間基地の危険性を除去するには、辺野古移設が唯一の選択肢」という前提も、海兵隊の抑止力や沖縄の地理的優位性は疑問視されており、沖縄県以外に受け入れ先がないということ以外に説得力はない[ii]

 ニュースウォッチ9(16/12/20)は、「最高裁の判決も、この問題の決着ではない」と述べてはいるが、その理由として、海底の岩礁破砕やサンゴの移植のために必要な県の許可など、沖縄県が埋め立て阻止に向けてとり得る手続き上の方策を伝えるだけで、翁長知事が承認そのものを撤回できることへの言及がなく、また民主主義的な見解もない。
 沖縄の民意と言う点で言えば、ニュースウォッチ9は、辺野古新基地建設に反対する男性と、「(米軍)基地なくしてはこの地域の経済はあり得ない」と言う、「今は…ほとんどの店が閉店し…閑散としてい」るが、かつては「ベトナム戦争に参戦するアメリカ兵が通う飲食店が多く立ち並び…非常ににぎわっていた」辺野古中心街の商店主の声を紹介している。NHKは、新基地建設の容認派と反対派のバランスを取っているつもりかもしれないが、これまでの選挙で示されてきた辺野古新基地建設についての沖縄県の民意を反映しているとは言えない。
 ニュースウォッチ9は、今回の判決への批判的見解として、稲田大学片木淳教授の「沖縄県民はまだ納得してないんじゃないでしょうか。国と地方は対等。協力の立場だという基礎に戻って…説明責任を果たしていく、情報公開もできるだけしていくということでまず理解を得る姿勢が必要」というコメントを紹介しているが、あくまで沖縄の市民が「理解する」立場だ。

 これでは、沖縄県が、最高裁の判決が確定し、正当性がないのに政府が進める計画を妨害しているとの印象を与えないだろうか?

 

[i] 仲井真前知事と当選した翁長知事の間に政策的な違いは米軍基地問題以外になかった。また、この選挙は仲井真前知事の応援演説に駆け付けた山本一太前沖縄・北方担当相(当時)が演説で「仲井真知事を失うと悪夢のシナリオがやってくる。普天間飛行場は固定化され、最後にやってくるのはかつて沖縄を停滞に陥れた革新不況だ」と言い放つなど(毎日15/1/29)、仲井真前知事に投票するよう脅迫されながらの選挙だったにもかかわらず、辺野古新基地建設反対を掲げた翁長知事が当選した。

[ii]海兵隊員を運ぶ強襲揚陸艦は沖縄から約800キロ離れた米海軍佐世保基地(長崎県佐世保市)が母港で、緊急時にすぐに動けない。また、海兵隊は東南アジアなど各国軍隊と演習を定期的に実施し、沖縄不在のケースが少なくない。いずれも沖縄では『常識』の話だ」(毎日16/9/30)、「海兵隊が沖縄から仮に本土に移転したら、抑止力が大きく低下するのだろうか。まったく心配無用だ。海兵隊が出撃するときの輸送手段は艦船か輸送機だが、そのいずれも沖縄には存在していないからだ。艦船は長崎県佐世保港であり、輸送機は米本国から飛んでくるのを待つしかない。政府は沖縄に海兵隊が駐留する理由について、沖縄なら北朝鮮台湾海峡の両方を同時に警戒し、対処できるいいポジションにある、と説明するが、それも信憑性が薄い。…沖縄から北朝鮮の首都平壌まで約1416㎞、台湾の台北までは645㎞で合わせて2051㎞の長さがある。…他地域と比較すると、長崎県佐世保から平壌まで740㎞、台北まで1200㎞で計1940㎞、佐賀県平壌までが770㎞、台北が1232㎞で計2002㎞、福岡だと計2006㎞になる。いずれも沖縄より合計距離が短いのだ。すると移動距離は沖縄が取り立てて好条件にあるとは言えないだろう。…仮に朝鮮半島北朝鮮が暴走した場合、海兵隊を運ぶ船が佐世保錨を上げて出港し、沖縄に南下して兵員と物資を載せて、再び北上しなければならない。これは合理的な部隊配置なのか」(沖縄タイムス15/4/8)。また、民主政権当時の防衛大臣森本敏が「軍事的には沖縄でなくても良いが、政治的には沖縄が最適」、自民党中谷元防衛大臣在任中「理解をしてくれる自治体があれば移転できますけど、『米軍反対』とかいう所が多くて、なかなか米軍基地の移転が進まないということで沖縄に集中している」と発言している。