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── Media Watchdog Group

米軍戦闘機の低空飛行訓練の問題で、ニュースウオッチ9が伝えたのは住民の不安を解消するために努力する米軍の姿

 ニュースウオッチ9(20/12/8)は在日米軍の戦闘機が中国地方や四国地方などの市街地上空で頻繁に低空飛行訓練を行っている問題を取り上げた。米軍の戦闘機の目撃情報が相次ぐ島根県浜田市こども園や、高知県本山町の町長などを取材している。しかし米軍の訓練が市民生活を脅かしている現状を伝え、米軍に好き勝手な振る舞いを許している日米地位協定の問題などを指摘するのかと思いきや、それには全く触れず、日本との合意を守り地元住民にも配慮する米軍の姿勢を強調する内容になっている。

 ニュースウオッチ9は、轟音を立てながら島根県浜田市こども園の上空を低空飛行する米軍戦闘機の映像や、飛行機の音が聞こえる度に脅えている子どももいると語る保育士の声などを伝えた後、問題の戦闘機が所属すると見られる米軍岩国基地を取材。そして低空飛行の訓練が増えているのは新型コロナの影響で基地から離れた地域での訓練ができないからだと話す海兵飛行大隊長・デウォルフ大佐の説明を伝えた後は、米軍に対する好意的な印象を視聴者に与えるためのPRが続く。

「私たちの飛行訓練は全て日本政府との合意に基づいて行われています。訓練はその枠組みの中で行われているのです」

と語るデウォルフ大佐。ニュースウオッチ9は、

「国は日本の航空法が一部適用されないアメリカ軍機に対し、飛行の高度制限などについて日米間で取り決めを定めています。住宅密集地では、一番高い建物から300メートル、住宅のない地域では地上150メートル以上を飛行するとし、国はアメリカ軍に順守するよう求めています」

と補足説明。
 さらに、低空飛行する理由については「守秘義務」があるため答えられないが、

「私たちは、地元の皆さんの不安を解消するために、全力を尽くしています」

と話す大佐の説明を伝えた後、3年前から「アメリカ軍からの要望」で、地元の行事の情報などが米軍に伝えられるようになったことを紹介。冒頭の浜田市こども園でも、卒園式などの行事日程を提出した結果、現在では、

「轟音で入園式が中断したり、卒園式で声が聞こえなかったりということはない」こども園園長)

そうだ。訓練計画を立案する米軍の担当者によると、騒音を減らさなければならない時間帯などの情報を毎週各部隊に通知し、「低空飛行の時間が最小限になるよう調整して」いるのだという。
 ニュースウオッチ9は、それでも「地元の不安は拭い切れ」ていないと述べて、米軍の裁量任せでは住民の安全を守ることはできないのではないかと語る高知県本山町の細川博司町長の声を伝えているが、デウォルフ大佐の次の言葉で「地元自治体の不安」を打ち消している。

「地元との軋轢を避けるためにできるだけのことをしますが、どうしても飛ばなければいけない日もあることも、事実です。……日本との相互協力・安全保障に関する条約を順守することの重要性は、ずっと変わりません」

 さらに取材した記者は、

「国が違うだけに、なかなか日本側の声、ましてや地域の住民の声は、アメリカ軍には届かないのではないかと思っていたが、地域住民の声を聞き置く仕組みも築かれているように感じた」

そうだ。

 今、日本社会では全国知事会日米地位協定改定を求める提言を行うなど、日米地位協定の見直しを求める動きが広がっている。言うまでもないことだが、日米地位協定が米軍の無法な振る舞いを許しているからだ。
 例えば、問題となっている米軍の低空飛行は、最低安全高度を定めた日本の航空法第81条(人口密集地では「最も高い障害物の上から300メートル」、それ以外では「地面や建物などから150メートル」)が、地位協定により米軍に対しては適用除外となっているからだ。ニュースウオッチ9は米軍機の飛行高度制限について、「住宅密集地では、一番高い建物から300メートル、住宅のない地域では地上150メートル以上を飛行」する取り決めが日米間で行われていると説明しているが、それは間違いだ。
 他にも、日本側に米軍が行う訓練や演習を規制する権限がないことや、米軍の財産に対して捜索・差し押さえ・検証を行う権限が日本側の当局にないこと、公務執行中の米兵の犯罪に対する裁判権が米軍にあること、米軍や軍属とその家族に対する納税免除や、旅券及び査証に関する日本の法令適用除外など、日米地位協定によって米軍や軍属とその家族には治外法権的な特権が与えられている。

 こうした問題に触れずに、住民の不安を解消するために努力する米軍の姿勢を視聴者に印象付けようとするのは、取材した人々や、受診料を支払っている視聴者に対する裏切りではないだろうか。