Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

確かに、温室効果ガス削減目標をどのように実現するかということが重要ではあるけれども……

 合衆国政府の主催で行われた気候変動会議に合わせて、日本政府は2030年までに達成する温室効果ガスの削減目標を発表した。2013年度比で46%削減し、「さらに50%の高みに向けて挑戦」するそうだ。これまで掲げてきた数値を大幅に上回る目標だが、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑えるというパリ協定(2015年)の目標を達成するには、日本は国内だけで2013年比60%以上の削減が必要だという試算もある。従ってマスメディアが「野心的な目標」(朝日21/4/23ニュースウオッチ9、21/4/23 、など)だと強調し過ぎるのは少し問題ではないかと思うが、それでも、どのように目標を達成するかということが重要だという彼らの主張(『温室ガス削減 具体策示して変革促せ』、朝日21/4/25、社説;『温室ガスの46%削減 目標達成への戦略早急に』、毎日21/4/25、社説;ニュースウオッチ9、同 、など)も正論だろう。

 しかし、「どのように目標を達成するか」ということに関しても、首をかしげたくなるニュースがある。その例を2つ紹介する。
 まずは、国内初となる運転開始から40年超えの原発の運転に、福井県の杉本達治知事が同意を表明したことを伝えたNHKニュース7(21/4/28)とニュースウオッチ9(21/4/28)。
 番組内容はほぼ同じだが、いずれも温室効果ガスの削減目標を達成するために、

「現在6%の原子力比率を2030年度には2割程度まで高めることが必要不可欠だ」

という日本政府の見解を伝え、運転開始40年越えの原発の運転が必要な理由について、次のように説明している。

「現在、国内の原発は建設中も含めて36基あります。経済産業省は電力のおよそ2割を賄うとすると、30基前後の稼働が必要だとしています。2030年度末の時点で運転開始から40年未満の原発は21基。仮にこれらが全て稼働しているとしても、まだ9基足りません。このため、2030年度末の時点で運転40年を超える15基のうち、9基は運転の延長が避けられない計算になるのです」

 この論理はおかしくないだろうか。
 NHKも伝えているように、原発は老朽化すると中性子照射によって原子炉の内壁が劣化するなど、安全面での影響が懸念される。そのため、原則である運転期間40年を超える原発の稼働を例外として認める際には、慎重で厳格な審査が求められる。しかしNHKの説明に従えば、審査の基準を満たしていないような原発であったとしても、電力の原発比率を2割にするために、「運転の延長が避けられない」ということになってしまう。9基足りないのなら、原発比率2割というエネルギー構成の方を見直すべきだろう。NHKは政府の言うことを絶対視するあまり、考える順番が逆になっている。
 しかも、原発再稼働ということ自体、市民の合意を得られていないのではないか。ニュースウオッチ9の田中正良キャスターは、

「国はエネルギーの安定供給と温暖化対策に原発は必要だとしています。しかし、原発事故の教訓は忘れてはならないと思います」

と述べているが、原発を使い続ける──しかも40年越えの原発を──ということ自体が「教訓」を忘れていると言わなければならない。

 もう一つの例は、脱石炭の課題について伝えたニュース7(21/4/24)。
 ニュース7は、

「日本は、国際NGOのグループから温暖化対策に消極的と見なされ、不名誉な化石賞を度々贈られてきました」

と紹介して、「発電量のおよそ3割を石炭火力が占める日本」は、「対応を迫られて」いると説明しているが、その後がいけない。日本政府の対応について、

二酸化炭素の排出が多い古い発電所を大幅に削減し、より発電効率が高いものに切り替えていく方針です。ただ、国内に70基ある大手電力会社の発電所のうち、目標とする高い発電効率を達成しているのは僅か2基です」

などと伝えている。
 石炭火力発電は、「より発電効率が高い」ものでも、天然ガスのおよそ2倍の二酸化炭素を排出する。
 「より発電効率が高いものに切り替えて」石炭火力発電の利用を続けていく。それが「化石賞」受賞の理由の一つではなかったか。