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── Media Watchdog Group

黒川弘務検事長を巡る問題でも、NHKは政権に都合の悪い情報を無視して安倍政権のためのPR

 「検察庁法改正案」に抗議する市民の声の高まりを受けて安倍政権が今国会での同法案成立を断念した直後、東京高等検察庁の黒川弘務検事長は新聞記者との賭博行為が発覚して辞任した。今年1月の安倍政権による違法な黒川弘務の定年延長決定や、黒川の定年延長を後付けで正当化し検察官人事への内閣の介入をも合法化する「検察庁法改正案」、賭博を行った黒川に対する処分の妥当性など、安倍政権への不信は募るばかりだ。ところが公共放送を自負するNHKの主要ニュース番組であるニュース7(20/5/22)は、こうした問題を追及する姿勢を全く見せず、安倍晋三の国会での答弁を無批判に伝えることに終始している。

 ニュースの冒頭、政府が黒川弘務の辞職を「承認」し、「安倍総理大臣は黒川氏の定年を延長したこと自体に問題はなかったとしたうえで、責任は私にあると述べました」と伝えたニュース7は、黒川の定年を延長した責任を問う野党議員に対する安倍晋三の答弁を紹介。

検察庁の業務遂行上の必要性に基づき、適正なプロセスを経て、引き続き勤務をさせることとした」、
「もちろん脱法的なものではないし、検事総長にするために勤務延長させたものでもございません」

そして賭博を行っていた黒川弘務の処分を訓告としたことについて、安倍晋三は、

検事総長が、事案の内容など諸般の事情を考慮して適正に処分を行ったものと承知している」

と述べたと伝えている。

 安倍晋三のこれらの答弁は全部嘘だ。
 まず安倍政権が黒川弘務の定年延長を決定したことは明らかに違法である。検察庁法は検察官の定年延長を認めておらず、安倍政権が黒川の定年延長の根拠としている国家公務員法の定年延長の規定は、検察官には適用されないことになっている(例えば1981年4月28日の衆議院内閣委員会での人事院事務総局・斧誠之助任用局長の答弁や、1980年に当時の総理府が作成した『国家公務員法の一部を改正する法律案(定年制度)想定問答集』などを参照)。また黒川の退職後すぐに後任が決まったことから、「検察庁の業務遂行上の必要性に基づき」というのも当たらないだろう。
 しかしながら、黒川弘務は安倍政権にとっては確かに「余人をもって代えがたい」存在だったのだろう。森友学園への国有地売却問題で公文書変造などの疑いで告発された佐川宣寿元財務省理財局長が不起訴となった事件では、官邸が法務省を介して検察に圧力をかけていたことを示す文書が明らかになっているが(共産党・辰巳孝太郎議員が入手し、2018年6月18日の参議院決算委員会で示した国土交通省の内部文書)、当時法務省事務次官だったのが黒川だった。また黒川の定年延長の閣議決定が行われた当日、東京地検桜を見る会を巡っての安倍晋三に対する背任容疑の告発について不受理の通知を出している。こうした事実から、安倍晋三が自身の不正に対する捜査を回避するために、安倍政権に近いと評される黒川を検事総長にしようとしていたのではないかと疑う十分な根拠がある。
 黒川の処分については、国家公務員法の規定では公務員の賭博は訓告より重い懲戒処分とすることが定められている。また森雅子法務大臣は22日の記者会見で黒川の処分について、「法務省内、内閣と様々協議を行った」、「最終的に内閣で決定がなされたものを、私が検事総長にこういった処分が相当ではないかと申し上げ、検事総長から訓告処分にするという知らせを受けた」と述べており、上記、同日の安倍晋三の国会答弁と食い違うことが問題視されているが、懲戒処分はその任命権者である内閣が行うことが国家公務員法で定められており、法務省検事総長が処分を決定したというと安倍晋三や、後になって安倍晋三の主張に合わせて説明を180度変えた森雅子の説明は、筋が通っていない。

 またニュース7は最後に、安倍晋三が自らの進退を問われたのに対して、

「コロナウィルス感染症の拡大を防止し、国民の健康と命、そして何よりもですね、雇用と事業の継続、そして暮らしを守り抜いていく大きな責任があるわけであります。この責任を果たしていく。これが私に課せられた使命であると、こう考えております」

と答弁したことを紹介した後、今後の国会審議について与野党の協議が続いていることを伝えてニュースを終えているが、市民の批判が高まるまで「雇用」や「暮らし」を守るために必要な予算を出し渋り、コロナ危機のさなかに「検察庁法改正案」や、既に成立した「年金制度改革関連法」や「スーパーシティ法」、それに「復興庁設置法等改定案」や「種苗法改定案」など問題の多い法案の成立を図ろうとしてきた安倍晋三に、ウィルスの感染拡大を防いだり、「国民の健康と命」を守る気がないのは明らかだ。また朝日新聞(20/5/25)の世論調査では52%、毎日新聞(20/5/24)の世論調査では64%が安倍内閣を「支持しない」と回答し(「支持する」はそれぞれ29%と27%)、いずれの調査でも過半数が新型コロナウィルスに対する安倍政権の対応を評価していない。多くの人は安倍晋三がウィルス対策で「使命」を果たすことなどに期待しておらず、むしろ安倍晋三には一刻も早く退場してもらいたいと考えているのではないか。
 疑惑だらけの政府を追及せず、安倍晋三の答弁に何の疑問も呈することなく、彼の主張をひたすら伝えるばかりのニュース7は、安倍政権を再浮上するためのPR番組のようだ。

 今更例を挙げる必要もないと思うので詳細は省くが、NHKニュース7(20/5/22)に限らず政権寄りの放送をしている。
 同じ日のニュースウオッチ9(20/5/22)は、黒川弘務のニュースについては手短に(約1分40秒)しか伝えない一方で、中国の全国人民代表大会全人代)のニュースには十分な時間(約8分15秒)を配分して中国政府について批判的──正確には新型コロナウィルスに関して中国政府を不当に貶めるためのPRだ──に伝え、中国・武漢で友人の市民ジャーナリストと共に「当局に都合の悪い情報も発信」してきたという張毅さんが、

「政府は300人の記者を武漢に送ったが、前向きでいい話しか伝えていない。誰も声を上げなければ、この社会に希望は無くなってしまう」

と語るのを紹介しているが、それは正にNHKと日本社会についても言えることだ。
 果たして、NHK職員はそのことを自覚しているだろうか。