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── Media Watchdog Group

「増税やむなしの空気」を作り上げてきたマスメディア

 毎日新聞(19/7/3夕刊)は、消費が落ち込むのを承知で消費税増税に踏み切ろうとしている日本社会を、合理性に優越して日本人の判断を拘束するといわれる「空気の支配」について山本七平が論じた際に例に挙げた戦艦大和の無謀な出撃に擬え、現在の日本人は「増税やむなしの空気」に支配されていると危惧する批評家のコラムを紹介している。
 「増税やむなしの空気」──。ここで問題にしたいのは、このコラムのことではなくて、そのような「空気」を創り出してきたのがマスメディアだということだ。

 マスメディアは、社会保障費は消費税で賄うものだという固定観念を植え付けてきた。例えば、冒頭のコラムを掲載した毎日新聞の同日の朝刊社説も、年金問題を論じる中で、

「年金が参院選の最大の争点と主張するのであれば、具体的な改革案と財源確保策を示すべきである。消費税10%への引き上げにもこぞって反対しているのは無責任と言わざるを得ない」(毎日19//7/3)

と主張している。野党の中には富裕層や大企業への課税強化などを社会保障費の財源にすることを提案している党もあるのだが、毎日新聞にとって社会保障費の財源は消費税という選択肢以外は論外であり、消費税増税に反対することは「無責任」なことなのだろう。

 しかし消費税導入から2018年度までの消費税収の累計が372兆円であるのに対し、法人3税は291兆円減少しているが(赤旗18/12/24)、この間、消費税率が導入時の3%から8%まで引き上げられる一方で、法人3税の税率は消費税導入前の50%(法人税は42%)から30.62%(同23.2%)にまで引き下げられている。所得税最高税率も、導入前の50%から45%に引き下げられた
 先日、2018年度の税収が過去最高を記録したことがニュースになったが、これまで最高だった1990年度と2018年度の税収の内訳を比較して見ると、消費税収が約13兆円増えて4倍近くになっているのに対し、所得税法人税はそれぞれ6兆円以上の減収となっている(赤旗19/7/7)。
 消費税が富裕層への減税や法人税減税の穴埋めに使われてきたことは明らかだ。富裕層への最高税率法人税率を消費税導入前に戻せば、消費税を上げる必要などないし、いっそ消費税を廃止してしまってもかまわないのではないか。

 法人税を元に戻すと企業が税率の低い海外に拠点を移すのではないかとか、企業の競争力が弱くなるのではないかと心配する人がいるかもしれないが、内閣府が今年3月に発表した「企業行動に関するアンケート調査」によると、企業が海外に生産拠点を置く理由(複数回答)として「現地政府の産業育成政策、税制・融資などの優遇措置がある」と答えた企業は4.7%に過ぎない。「現地の顧客ニーズに応じた対応が可能」、「現地・進出先近隣国の需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」、「労働力コストが低い」などが、海外に拠点を移す理由の上位を占めていた。それでも心配なら、グローバル企業による圧力などで法人税の引き下げ競争が激化しているというのは世界共通の問題なのだから、国家が庶民のために在るなら、法人税率引き下げの過当競争を防ぐための国際ルールを作るべきだ。企業の競争力については、安倍政権は発足以来、大企業などに4兆円の減税を行ってきたが、大企業の内部留保が増える一方で、賃金は伸び悩み、設備投資も増えていない。企業の競争力を心配するより、大企業がため込んだ利益をどう使わせるかが問題だ。

 安倍政権は法人税を段階的に引き下げる一方で、2014年に消費税率を3%引き上げ、さらに2%引き上げると宣言している。
 マスメディアが上記のような事実にも焦点を当て、社会保障費の財源を消費税に限定せず、誰が社会保障費を負担すべきかについて真剣な議論を展開していれば、野党全てが消費税増税に反対しているという状況で、金持ちや大企業のエリート以外の誰が与党の自民党公明党に投票する気になるだろう。